計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」・・・杜の都で「かだりまくった」夜。

2008年11月23日 | CAMJ参加記録
 日本気象学会2008年度・秋季大会3日目の終わりに日本気象予報士会・東北支部が中心となってのイベント・大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」が開催されました。日本気象予報士会・東北支部としても全国デビューを果たす良い機会になったと思います。この大気象サイエンスカフェでは、大学や気象庁の関係者、並びに気象予報士等が一同に会して各々の想いを語り合いました。

 まず始めに、大学で気象学の研究をされている先生をお招きして「カオスと気象学」と題した講演が行われました。かつては「物理帝国主義」と言う、全ての因果を詳細に解析することで、その後の未来の現象の全てが予測できるという決定論的な思想が罷り通っていました。すなわち、全ての未来・運命は既に定められているという事になるのです。しかし、未来は必ずしも一通りに定まっているわけではない事が発見され、今ではローレンツ・モデルとして知られている他、フラクタル構造、自己相似性=任意の一部分を拡大すると再び同じ構造が見えてくるような性質も発見されています。気象がカオスである事は予測限界性の議論においての重要な基本でありますが、短い時間ながら、とても面白い内容でした。

 教科書における予測限界性の説明では、ローレンツ・モデルを引き合いに出して初期値にほんの僅かな差異(誤差)が混入するだけでも将来に起こりうるシナリオが多種多様に広がっていく事を説いています。従って、気象予測においてはカオス性が不可避である事から、どうしても決定的な予想には限界があり、長期予報に見られるような「高い:平年並:低い=30:40:30」のような確率論的な予想になってしまうのです。この辺について、大学で数値予報モデルの研究に従事されている先生からからは現段階での予報誤差は「カオス性による誤差」よりも「モデル自身の誤差」が大きいので、まずこちらを無くす努力をしているとのコメントがありました。

 ユーザの立場からは「白か黒か」的な決定論的な予想を求められるのに対し、サプライヤーの立場からは確率的な予測での対応になるという、言わば「需給間のギャップ」が問題となります。必ず何らかの不確実性を含む予測情報であるとの認識に立ち、どのような形でユーザに情報提供をすれば良いのかについての議論にも発展してきました。それは、気象の予報がどのように社会に対して伝え、または伝わり、理解され、役に立つのかと言う所もまたカオス性を持つが故の問題でもあります。ある意味、どんどんカオスにカオスが輪を掛けるようなもの。ユーザ側に対しても気象の持つカオス性や気象情報の持つ不確実性に対する認識を持って頂けるよう、啓蒙活動を行う必要があるという点で会場の認識は概ね一致したように感じました。

 その際に、決定論的な情報に不確定性の情報を追加する形での提供する形が提案された一方、例えば、アンサンブル予報のスプレッドが不確定性の指標に相当するがこれをそのまま一般の人に伝えても混乱を招くという指摘もありました。利用者の予報に対する認識として「外れるときはどういう外れ方をするのか」と言うのも重要な情報であるという点の指摘もありました。いずれにせよ「カオスを隠れ蓑にして自らの予報の技量の無さの言い訳にしてはいけない」のは言うまでもありません。

 また気象庁の関係者の方からは、このような啓蒙活動を気象予報士に御願いしたい旨の発言があり、気象庁の代わりに啓蒙活動を行う、言わば気象庁のメッセンジャーというのはそれなりの対価がペイしないとできないのではないか、(現状行われている)ボランティア体制でも限界がある、との意見も出されました。これについては、気象庁が業務として行う啓蒙活動と日本気象予報士会の会員がボランティアで行っている啓蒙活動は似て非なるものです。一方はカネをもらって働くもの(=正当なる業務として行うもの)であり、もう一方はカネは無くても世のため人のために役立ちたいとの思いから行動している(=ボランティア活動として行うもの)という違いがあります。どちらが良くてどちらが悪い、というものではなく、単に「根本が違う」と言う点は忘れてはいけません。

 やはり、どのような対象に向けて提供するかに応じて、提供する情報も変わっていくものと考えた方が良いのでしょう。どんなに専門性の高い、きめ細かい情報も受け手となるユーザが使いこなす事ができて初めて、意味のある道具になるのです。そこに気象予報士の活躍の場のヒントが隠れているように思えてなりません。

 肝心の研究発表については、またの機会に・・・。
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