計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

前線形成と鉛直循環の励起

2022年05月10日 | お天気のあれこれ
 前回の記事「前線形成関数を構成する4要素」の続編です。

 前回の記事で述べたように、前線付近では温位傾度は増大します。このため、等圧面における温位傾度の時間変化で定義される「前線形成関数」を用いて、温位傾度の変化を評価します。

 今回は、水平面上の温位傾度の変化によって励起される「二次的な鉛直循環」(ソーヤー・エリアッセンの鉛直循環)について扱います。以下、フロントジェネシス(温位傾度が増大)する場合と、フロントリシス(温位傾度が減少)する場合について各々考えてみます。


【(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起】


①初期状態

 等温位線は水平面上には横向きに、鉛直面上では傾斜している状態を想定します。また、水平面上では手前側が暖気(高温位)、奥側が寒気(低温位)に相当します。また、赤矢印は上層・下層における相対的な風速を表しており、互いに温度風の関係を満たした状態にあると考えます。つまり、風の鉛直シアのバランスが取れた状態と言うことです。

②前線形成

 このように温位傾度が増大すると温度風が強化されるので、上空ほど西風が強まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントジェネシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「直接循環」が励起されます(上図右側・前線消滅を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントリシスの側に働くことに相当します。

※上図では、左側と右側・前線消滅では等温位線の傾きが逆向きに描かれています。これは、直接循環によって等温位線の傾きが逆向きに誘導されるという趣旨です。


 ただし、合流項・シアー項はフロントジェネシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。この結果、下層では温位傾度が強く、上層に行くほど温位傾度は弱まります。


【(2)フロントリシスに伴う間接循環の励起】


①初期状態

 先の「(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起」と同じです。こちらでは、予め「温位傾度が大きい状態」で風の鉛直シアのバランスが取れた状態を想定しています。

②前線消滅

 このように温位傾度が減少すると温度風が弱まるので、上空の西風も弱まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントリシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「間接循環」が励起されます(上図右側・前線形成を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントジェネシスの側に働くことに相当します。

 ただし、合流項・シアー項はフロントリシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。


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