梅雨明けしたと思ったら、一気に真夏の暑さが続いています。過去の記事「電力需要と気温の関係」でも紹介しましたが、夏場は気温が高くなると電力需要も増加します。冷房を稼働するために多くの電力を用います。
そこで、今回は主な火力発電の方式ついて書いてみます。学生時代は工学部機械系に在籍し「工業熱力学」も勉強していたので、熱サイクルの観点から興味深い話題です。現在の火力発電は大きくわけて3種類の方式があります。
・蒸気タービン発電
高温・高圧の蒸気の流れによりタービンを回す。
熱サイクルは「ランキンサイクル」がベース。
・ガスタービン発電(GT)
高温・高圧の燃焼ガスの流れによりタービンを回す。
熱サイクルは「ブレイトンサイクル」がベース。
・複合サイクル発電(GTCC)
ガスタービンの排ガスの余熱で蒸気タービンを駆動。
熱サイクルは「ブレイトンサイクル」と「ランキンサイクル」のハイブリッド型。
さらに、二酸化炭素削減の観点から、次のような新技術の研究開発が進んでいます。
・石炭ガス複合発電(IGCC)
石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として使用
・水素ガスタービン発電
ガスタービン発電の燃料を一部水素に代替 → 水素専焼GTCCを視野
【1.蒸気タービン発電】
お湯を沸かして、その蒸気でタービンを回すものです。汽力発電とも言います。燃料は主に石炭・重油・LNG(液化天然ガス)を用います。
ランキンサイクルの構成は次の通りです。
1 → 2 :水をポンプ(Pf)で押し上げる(圧縮)
2 → 3':ボイラー(B)で加熱し、水を全部蒸気に変える
※沸点に達した液相(飽和液)→液相と気相の共存(湿り蒸気)→全て気相(飽和蒸気)
3'→ 3 :飽和蒸気を過熱器(S)でさらに加熱し、過熱蒸気に変える(エロージョン防止のため)
3 → 4 :高温・高圧の過熱蒸気をタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる
4 → 1 :膨張後の蒸気を凝縮器・復水器(C)に導き、冷却して水に戻す
ちなみに、何かと話題の「原子力発電」はボイラー(B)と過熱器(S)を原子炉で代替したもので、原理的にはランキンサイクルです。
【2.ガスタービン発電】
思いっきり圧縮して高温となった空気に燃料を吹っかけ、爆発させて(?)そのガスの威力でタービンを回すものです。燃料は主に灯油・軽油・LNG(液化天然ガス)を用います。内燃機関(エンジン)の一種でもあります。
ブレイトンサイクルの構成は次の通りです。
1 → 2 :空気を圧縮機(CG)に取り込む(断熱圧縮)
2 → 3 :圧縮された空気と燃料を燃焼室(CH)で混合する(等圧燃焼)
3 → 4 :混合ガスをタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる(断熱膨張)
4 → 1 :ガスを排出(等圧排気)
(3の状態では1000℃近い高温に達し、4の状態でも500℃近い高温となっています)
【3.複合サイクル(コンバインドサイクル)発電】
ガスタービン(ブレイトンサイクル)の排ガスの余熱で、蒸気タービン(ランキンサイクル)を駆動する方式です。
ブレイトンサイクルから出る排ガスの余熱を熱交換器(HE)で回収し、ランキンサイクルのボイラー(B)と過熱器(S)を代替する仕組みです。ブレイトンサイクルで燃料を投入すれば、ガスタービンと蒸気タービンを連続して運転することが可能となります。
つまり、1度の燃料投入で2段階の発電が可能となるため、ガスタービンと蒸気タービンを単体で運転するよりも、効率良く発電が可能です(熱効率が向上します)。
【4.石炭ガス複合発電】
石炭ガス複合発電(IGCC)は、石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として用います。発電量1kWh当たりのCO2排出量を、従来の石炭火力発電よりも15%程度の低減されるようです。
ブレイトンサイクルを運転するためには、燃焼により非常に高い温度(1000℃近く)を実現することが求められます。そこで、まずは石炭から可燃ガスを取り出します。この可燃ガスを燃料として、ブレイトンサイクルの燃焼室に投入します。後は複合サイクルの運転と同様です。
さらに、IGCCの発展形として「IGCC+CCS」の研究も進められているようです。
上述のIGCCに、新たにCO2を回収し地中に閉じ込める技術(CCS)を組み合わせるものです。この技術により発電量1kWh当たりのCO2排出量は、従来の石炭火力発電より80~90%の低減が期待されています。とは言え、いろいろな課題もあるようです(ここでは割愛します)。
【5.水素ガスタービン発電】
ガスタービン発電の燃料を水素に代替する研究も進んでいます。まずは、燃料の内30%を水素で代替する方法が試されました、この場合、発電量1kWh当たりのCO2排出量は(一般GTCCに比べて)10%程度低減するようです。
この方式は燃焼室(CH)を改造または交換するだけで、既存のガスタービン施設に適用できるのが利点です。また、ガスタービンの後に蒸気タービンを連結することで複合サイクルに発展させることもできるでしょう。
というわけで、将来的には「水素専焼GTCC」の実用化、引いてはCO2ゼロの実現も視野に入れているようです。もちろん、燃料用水素のサプライチェーンなど課題も残る一方、今後の進展に期待と興味を持っています。
最後に、エネルギー問題に関しては様々な議論があることは承知しています。確かにどの選択肢を採るにしても、必ずメリット・デメリットの両方が存在します。既存の選択肢で議論することも大切ですが、将来の可能性を考慮し、新たな選択肢を用意することもまた大切なことと感じています。
そこで、今回は主な火力発電の方式ついて書いてみます。学生時代は工学部機械系に在籍し「工業熱力学」も勉強していたので、熱サイクルの観点から興味深い話題です。現在の火力発電は大きくわけて3種類の方式があります。
・蒸気タービン発電
高温・高圧の蒸気の流れによりタービンを回す。
熱サイクルは「ランキンサイクル」がベース。
・ガスタービン発電(GT)
高温・高圧の燃焼ガスの流れによりタービンを回す。
熱サイクルは「ブレイトンサイクル」がベース。
・複合サイクル発電(GTCC)
ガスタービンの排ガスの余熱で蒸気タービンを駆動。
熱サイクルは「ブレイトンサイクル」と「ランキンサイクル」のハイブリッド型。
さらに、二酸化炭素削減の観点から、次のような新技術の研究開発が進んでいます。
・石炭ガス複合発電(IGCC)
石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として使用
・水素ガスタービン発電
ガスタービン発電の燃料を一部水素に代替 → 水素専焼GTCCを視野
【1.蒸気タービン発電】
お湯を沸かして、その蒸気でタービンを回すものです。汽力発電とも言います。燃料は主に石炭・重油・LNG(液化天然ガス)を用います。
ランキンサイクルの構成は次の通りです。
1 → 2 :水をポンプ(Pf)で押し上げる(圧縮)
2 → 3':ボイラー(B)で加熱し、水を全部蒸気に変える
※沸点に達した液相(飽和液)→液相と気相の共存(湿り蒸気)→全て気相(飽和蒸気)
3'→ 3 :飽和蒸気を過熱器(S)でさらに加熱し、過熱蒸気に変える(エロージョン防止のため)
3 → 4 :高温・高圧の過熱蒸気をタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる
4 → 1 :膨張後の蒸気を凝縮器・復水器(C)に導き、冷却して水に戻す
ちなみに、何かと話題の「原子力発電」はボイラー(B)と過熱器(S)を原子炉で代替したもので、原理的にはランキンサイクルです。
【2.ガスタービン発電】
思いっきり圧縮して高温となった空気に燃料を吹っかけ、爆発させて(?)そのガスの威力でタービンを回すものです。燃料は主に灯油・軽油・LNG(液化天然ガス)を用います。内燃機関(エンジン)の一種でもあります。
ブレイトンサイクルの構成は次の通りです。
1 → 2 :空気を圧縮機(CG)に取り込む(断熱圧縮)
2 → 3 :圧縮された空気と燃料を燃焼室(CH)で混合する(等圧燃焼)
3 → 4 :混合ガスをタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる(断熱膨張)
4 → 1 :ガスを排出(等圧排気)
(3の状態では1000℃近い高温に達し、4の状態でも500℃近い高温となっています)
【3.複合サイクル(コンバインドサイクル)発電】
ガスタービン(ブレイトンサイクル)の排ガスの余熱で、蒸気タービン(ランキンサイクル)を駆動する方式です。
ブレイトンサイクルから出る排ガスの余熱を熱交換器(HE)で回収し、ランキンサイクルのボイラー(B)と過熱器(S)を代替する仕組みです。ブレイトンサイクルで燃料を投入すれば、ガスタービンと蒸気タービンを連続して運転することが可能となります。
つまり、1度の燃料投入で2段階の発電が可能となるため、ガスタービンと蒸気タービンを単体で運転するよりも、効率良く発電が可能です(熱効率が向上します)。
【4.石炭ガス複合発電】
石炭ガス複合発電(IGCC)は、石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として用います。発電量1kWh当たりのCO2排出量を、従来の石炭火力発電よりも15%程度の低減されるようです。
ブレイトンサイクルを運転するためには、燃焼により非常に高い温度(1000℃近く)を実現することが求められます。そこで、まずは石炭から可燃ガスを取り出します。この可燃ガスを燃料として、ブレイトンサイクルの燃焼室に投入します。後は複合サイクルの運転と同様です。
さらに、IGCCの発展形として「IGCC+CCS」の研究も進められているようです。
上述のIGCCに、新たにCO2を回収し地中に閉じ込める技術(CCS)を組み合わせるものです。この技術により発電量1kWh当たりのCO2排出量は、従来の石炭火力発電より80~90%の低減が期待されています。とは言え、いろいろな課題もあるようです(ここでは割愛します)。
【5.水素ガスタービン発電】
ガスタービン発電の燃料を水素に代替する研究も進んでいます。まずは、燃料の内30%を水素で代替する方法が試されました、この場合、発電量1kWh当たりのCO2排出量は(一般GTCCに比べて)10%程度低減するようです。
この方式は燃焼室(CH)を改造または交換するだけで、既存のガスタービン施設に適用できるのが利点です。また、ガスタービンの後に蒸気タービンを連結することで複合サイクルに発展させることもできるでしょう。
というわけで、将来的には「水素専焼GTCC」の実用化、引いてはCO2ゼロの実現も視野に入れているようです。もちろん、燃料用水素のサプライチェーンなど課題も残る一方、今後の進展に期待と興味を持っています。
最後に、エネルギー問題に関しては様々な議論があることは承知しています。確かにどの選択肢を採るにしても、必ずメリット・デメリットの両方が存在します。既存の選択肢で議論することも大切ですが、将来の可能性を考慮し、新たな選択肢を用意することもまた大切なことと感じています。