計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

南岸低気圧に伴う関東地方の降雪を考えてみる

2018年01月21日 | お天気のあれこれ
 普段は日本海側の地域の気象を見ていますが、今回は冬の気象に関連して「関東地方の南岸低気圧」について考えてみたいと思います。

 私が思うに、関東地方の降雪を考える上で大切なポイントは4つあります。それは、「上空の気温」「地上付近の気温」「降水現象の発生」そして「低気圧の進路」です。

 まずは「上空の気温」です。降水は上空の雲からもたらされますが、雲の中の水分は、多くの場合「氷の粒」の状態になっています。つまり「雪」の状態です。これが、その状態を維持しながら地上に到達する条件を考える必要があります。

 雲の中にある「雪」が落下すると、周囲の気温が上がるのに伴って、次第に融け始めます。やがて「みぞれ」になり、さらに融けると「雨」となって地上に到達します。この時、雪から雨に相変化(融解)する層を「融解層」と言います。



 さて、雲の中から舞い降りる氷の粒が「雪→みぞれ→雨」と融解していく時、その変化に必要なエネルギーを、周囲の空気から「潜熱」という形でもらっています。つまり、周囲の空気は「潜熱を奪われる」ため、自ずと冷えて(気温が下がって)行きます。


 上空の気温が十分に低いということは、融解層の(地上から見た)高度も低いという事です。もし、融解層の高度が高ければ、上空では「雪」であっても、地上に到達する頃には「雨」になってしまうからです。

 上空1500m付近でマイナス3~4℃以下の寒気が、一つの目安と言われています。

 続いて「地上付近の気温」です。もし融解層の高度が低くても、地上付近の空気が暖かいと「雪」から「雨」に融解して(または蒸発して)しまいます。なお、関東平野で降雪が起こる場合には、下層で寒気が滞留することが指摘されています。このプロセスについて考えてみましょう。

 まず、南岸低気圧が関東平野に近づく時、日本海側の地域から山を乗り越えて、寒気が関東平野に流入します。この寒気は「冷たく乾いた」状態になっています。


 これと前後して、南岸低気圧の接近に伴う南東の風や北東の風が、関東平野に向かって流れ込みます。これらの海からの空気は、上記の寒気よりも相対的に暖かいものです。


 日本海側から流れ込む寒気と、海から流れ込む空気がぶつかり合って、沿岸地域に収束帯を形成します。この2つの空気は互いに異なる性質を持っているので、この収束帯を「沿岸前線」と言います。


 日本海側から流れ込む寒気は、沿岸前線によって堰き止められる形となり、関東平野に寒気が滞留し始めます。この寒気滞留層の厚さは1km以下となることが多いと言われています。


 関東平野には持続的に寒気が流れ込み、より冷たい空気が下に蓄積されます。また、沿岸前線の近くでは降水を伴うこともあります。この降水が滞留する寒気の中に入ると、そのまま蒸発して、周囲の空気の潜熱を奪っていきます。この結果、対流寒気はさらに冷却されます。


 そして、「降水現象」をもたらす南岸低気圧が近づいてきます。低気圧の中心よりも東側では融解層の高度が高く、地上では「雨」となります。この雨によって、滞留寒気はさらに冷却されます。


 南岸低気圧はさらに東に進み、低気圧の中心より西側では融解層の高度がさらに低くなります。上空の雲からの落下の過程で融け残った「雪」や「みぞれ」がそのまま、地上付近の寒気滞留層を経て、地上に到達します。


 最後のポイントは南岸低気圧の「進路」です。低気圧の進路が北に寄り過ぎると、南からの暖気の影響が強まるので、気温が上がって「雨」になります。しかし、低気圧の進路が南に寄り過ぎると、降水域が関東平野から逸れてしまいます。低気圧の構造については「温帯低気圧と前線形成のイメージ」を御参考下さい。

 このように「北により過ぎず、南に離れ過ぎない」コースを進むことが、関東平野の降雪のための一つの条件として加わります。
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