製作年:2023年
製作国:アメリカ/イギリス/ポーランド
日本公開:2024年5月24日
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル,ザンドラ・ヒュラー
ナチスドイツ占領下にあった1945年のポーランド。アウシュビッツ強制収容所で所長を務めるルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)と妻のヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)は、収容所と壁を隔てたすぐ隣の家で暮らしていた。収容所からの音や立ち上る煙などが間近にありながら、一家は満ち足りた日常を送っていた。
第2次世界大戦下のアウシュビッツ強制収容所所長とその家族を描いたマーティン・エイミスの小説を原案にした歴史ドラマ。収容所の隣で穏やかに暮らすルドルフ・ヘス所長一家の姿を通して、それとは正反対の収容所の残酷な一面を浮かび上がらせる。監督は『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』などのジョナサン・グレイザー。出演は『ヒトラー暗殺、13分の誤算』などのクリスティアン・フリーデルや『落下の解剖学』などのザンドラ・ヒュラーなど。
第96回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した本作。アウシュビッツ強制収容所の隣に住む一家の物語。冒頭は真っ黒な映像が数分続き、そこから一変して青空の下でピクニックをする家族の姿から始まります。川で泳ぎ、プールも庭も温室もある豪邸に住み、食べ物も着る物も困らない。一見すると幸せな家族の映像にしか見えないが、その隣には確かにアウシュビッツ強制収容所。壁1枚隔てた隣では悲鳴、銃声、煙が…。洋服を分け合ったり、毛皮のコートや、流れてくる白い灰など時折感じる“見えない恐怖”を感じさせる演出は見事でした。
希望と絶望。天国と地獄。関心と無関心。異様な環境にいても、そこにずっと居続ければ慣れてしまう。それこそ無関心になってしまう人間の心理が伝わってきました。ルドルフ一家も決して冷酷非道な人間というわけじゃなく、環境に慣れてしまったからこそ、無関心な人間になってしまった。そういえば自分も以前、住んでいたマンションの真横が線路で、最初はうるさくて気になっていたけど、それも慣れてくると窓を開けたまま寝れるくらいになっていた。慣れって恐ろしい。
あまりにもルドルフ一家が平和な日々を送っていて、観ているこちらはウトウトしてしまうほどでした。隣に収容所があることを忘れてしまうほど。たしかに戦争もない平和な生活を日々過ごしていると世界で起きている戦争なんて他人事のように感じてしまう時がある。「あっ、これが無関心になるということか…」と気付かされました。この淡々とした退屈さえ感じる演出がこそが監督の狙いだったのかもしれないと思うと、この映画は奥が深い。
最後のヘスの嘔吐はどんなメッセージが込められていたのかが気になる…
この作品の評価・・・・★★★★★★★☆☆☆(満点は★10)