雨の朝、松江を発って、妹夫婦と出雲に向かった。
「いくら晴れ女でも、梅雨には勝てないわね」
私の旅は、いつもお天気に恵まれると、妹は前々から不思議がっていたのだ。が、今回ばかりはだめらしいと、激しく降り続く雨を車窓に眺めながら、妹は言った。
『有元利夫展』を観に来るなら一泊して、ついでに古代ハスを一緒に見にゆかないかと、誘ってくれたのは妹である。妹たちは、幾度か足を運んでいるのだが、車を持たない私に、便宜を図ってやろうとの心遣いからである。
「この雨ではだめね。ハスは来年にして、今日は<歴史博物館>にしましょうか」
と、言う。誘った手前、妹は気が気ではないらしい。
「出雲に着くまでに止むかもしれない。それから考えたら?」
「やはり晴れ女だ」
と、荒神谷史跡公園の駐車場につくと、妹が言った。
空は暗いが、雨は落ちなくなった。
「まずは、ハスを見に行きましょう」
私のために、雨靴も用意してくれていたが、足もとが気になるほどではない。折角持ってきたのだからと、妹の夫だけが、長靴に履き替えた。
「荒神谷オープンカフェ」でもらった簡単なガイドには、『荒神谷2000年ハス』について、次のように書いてあった。
<2000年ハスは、1951年に千葉県見川遺跡で2000年前の地層から大賀一郎博士が種を発見され開花に成功し命名されたもので、別名「大賀ハス」ともいいます。
荒神谷史跡公園のハスは、大賀博士が島根県大田市へ送られたものを、1988年に大田市より株分けして譲り受けたものです。
ハスは早朝に開き、午後には閉じてしまいます。花の開花を3日間繰り返し、4日目には花びらが散り始めます。
6月中旬から7月下旬まで、神秘な古代の世界へと誘います。>
気の遠くなるような命の営みである。
そう言えば、友人の車で、大田市の三瓶山に連れて行ってもたったとき、古代ハスの池があったのを思い出した。訪れたのが秋だったので、ハスのことはきれいさっぱり忘れていたが、今の時期、やはり神秘に満ちた美しい命を咲かせていることだろう。荒神谷のハスは、大田のハスの分家ということらしい。
益田にも、最近は古代ハスが咲くときいているが、まだ訪れていない。
<約5千株に5万本の花が、5000㎡の水田一面に咲く>と、ガイドの栞に書いてあった。
私の訪れた昨日、総数幾本の花が咲いていたのだろう?
何しろ広い水田なので、その数の確かめようはない。
花色は、ピンクの濃いものから薄いものまで、一様ではないが、これは開閉を繰り返した日数による変化ではあるまいか。4日目には花びらが散るという。
咲き始めほど、色が濃いような気がした。おそらく、今日初めて咲いたと思われるハスをカメラに収めた。(写真)
初々しく、汚れのない美しさである。
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