半透明記録

もやもや日記

『悪魔物語・運命の卵』

2005年12月19日 | 読書日記ーロシア/ソヴィエト
ブルガーコフ作 水野忠夫訳(岩波文庫)


《あらすじ》

舞台は1920年代のモスクワ。奇怪な出来事が続くーー事務員コロトコフは分身に翻弄され、動物学者は不思議な光線を発見したばっかりに…… 20世紀ロシアの幻想と現実を描いた反逆の文学。ザミャーチンが激賞した映画的作品とソルジェニーツィンの刮目したSF中篇に、再評価めざましいブルガーコフ(1891-1940)がいま甦る。


《この一文》

”コロトコフは夜明けとともにようやく眠りに落ちたが、緑の草原にいる自分の前に、生き物のような巨大なビリヤードの玉が短い両足で出現するというような、グロテスクな恐ろしい夢を見た。なんとも気味の悪い夢だったので、コロトコフは叫び声をあげて、目をさました。  「悪魔物語」より”




不覚にも、この『悪魔物語・運命の卵』をまだ取り上げていませんでした。
20世紀の傑作『巨匠とマルガリータ』のブルガーコフによる小説です。「悪魔物語」は幻想的で悲劇的な短篇、「運命の卵」は恐ろしいSF中篇です。
正直に言うと、「悪魔物語」はもう3、4回は読み返しているというのに、いまだにどういう話なのか良く分かりません。いえ、とても面白いのは間違いないんですけれども。途中から幻想が加速して、何がどうなっているのやらさっぱり訳が分からなくなってしまいます。ともかく、分身に翻弄されて、身を滅ぼすことになるマッチ工場の事務員コロトコフの悲劇です。目まぐるしく場面が変わって、まるでサーカスのようです。こういう感触は、少し『巨匠とマルガリータ』に通じるものがあります。

「運命の卵」は不思議な赤色光線の発見によって引き起こされるロシアの大混乱の物語です。ある年、なぞの疫病によってロシア国内の鶏が死滅してしまいます。このあたりは、今まさに流行が懸念されているインフルエンザなんかを連想させて、笑い事ではない感じがします。ペルシコフ教授によって発見された不思議な光線は生命の力を増殖させると考えられており、それを用いてロシアに鶏を復活させようと目論まれますが……。オチは間抜けなのですが、やはり笑い事ではありません。結構迫力のあるパニックものという感じです。しかし、恐ろしいながらも、ブルガーコフ独特のユーモアが随所に散りばめられている点では楽しめる作品でありました。

それにしても、このブルガーコフといい、ストルガツキイといい、ソヴィエト/ロシアの作家のユーモアというのは何か独特な感じがします。どのへんが独特なのかは、はっきりとは申せませんが。なんだろう、この面白味は。つい笑ってしまう描写のほうが、かえって皮肉や批判を印象的に伝えることができるのかもしれないと、ちらりと感じています。

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