半透明記録

もやもや日記

『壁抜け男』

2005年02月19日 | 読書日記ーフランス
マルセル・エイメ 長島良三訳(角川文庫)


《あらすじ》

ある日突然、壁を抜ける能力を
手に入れた、登録省の役人デュ
ティユル。彼は新しい上司と手
紙の書き方をめぐって対立する。
屈辱的な扱いを受けたことを恨
んだデュティユルが、壁から頭
を出してその上司を罵ると、混
乱した上司は精神病院に入院し
てしまう。この件をきっかけに、
パリの街に次々と奇妙な事件を
巻き起こしていくデュティユル。
しかし壁をすり抜け続けていく
彼の行く手のは、思わぬ落とし
穴が待ちかまえていた・・・。
奇抜で幻想的な世界に、人間の
優しさと悲哀、そして残酷さを
巧みに描いた、鬼才エイメの珠
玉の作品集。


《この一文》

” アントワーヌはたやすく自分の屋根裏部屋を見出して、音をたてずに忍び込んだ。母親の小さなベッドの上に一抱えの光を置くと、その光が眠りこんでいる母親の顔を明るく輝かせた。アントワーヌは、母親が少しも疲れていないことを知った。
           --「七里のブーツ」より ”



3、4年前に買ってそのまま読まずに放置してあったのを、今朝ようやく読みました。
予想以上に面白かったです。
どうも私はフランスの短篇(ただし主に幻想小説)とは相性が良いようです。
「壁抜け男」「変身」「サビーヌたち」「死んでいる時間」「七里のブーツ」の5篇を収めていますが、どの物語もそれぞれの設定が興味深いです。
壁を通り抜けることができるとか、一人の人間が同時に何箇所にも存在することができるとか、1日おきにしか存在することができない人間とか、どこかしら異常な状況を設定しています。
その中で、最後の「七里のブーツ」は特に不思議な設定もなく、童話のような内容でした。
普段なら「壁抜け男」のような話に惹かれる私ですが、今回は意外にもこの「七里のブーツ」が一番気に入りました。
とても美しいのです。

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