半透明記録

もやもや日記

お知らせ

『ツルバミ』YUKIDOKE vol.2 始めました /【詳しくはこちらからどうぞ!】→→*『ツルバミ』参加者募集のお知らせ(9/13) / *業務連絡用 掲示板をつくりました(9/21)→→ yukidoke_BBS/

『空の色ににている』

2012年05月10日 | 読書日記ー漫画

内田善美(集英社)



《あらすじ》
高校一年生で陸上部員の蒼生人(たみと)が図書館へ本を返しに行くと、図書係のひとつ上級の女生徒が貸出カードを見て意味ありげな笑みを浮かべたのに気がつく。その女生徒・浅葱(あさぎ)と親しくなった蒼生人は彼女に魅かれるが、浅葱には冬城(ふゆき)という3年生の恋人がいるらしい。人を寄せ付けない雰囲気を持つ冬城の借りているアトリエに、蒼生人は浅葱とともに出入りするようになり…




《この一文》

“そうさ そうさ
 とどのつまりは そうなんだ

 それでも僕はからまわりと知りながら
 何なのだろう 何なのだろうって
 考えてしまうんだ

 僕をとりまくすべてのものが
 僕などにおもいをとどめることなく
 ゆき過ぎてゆくけれど

 それでも僕は
 むくわれないと知りながら
 いろんなものを想い
 愛さずにはいられないんだ ”






先日【京都国際マンガミュージアム】で内田善美作品を4つ読んできました。そのなかでも私はこの『空の色ににている』に、言いようのない衝撃を受けました。何度も読み返したいのに、現在入手がとても困難であるのが残念。残念…残念すぎる……



さて、『空の色ににている』という作品はどのような作品であるかを一言で説明するのは難しいです。先日やはり激しい衝撃を受けた『星の時計のLiddell』と同じように、非常に美しく精緻な画面が大きな魅力であることは言うまでもありません。しかし、もちろんそれが魅力のすべてではないのです。

上に引用した部分は、主人公の男子高校生・蒼生人(たみと)が飼っていた猫が自らの死期を悟ったのか家から出て行ってしまったことについて考えている場面です。

たとえば、私にはこの一文や他の場面でのたくさんの文章が、少しの抵抗感もなくするすると心の深くまで染み通ってくるように感じるのです。この人の考えていることや言おうとしていること、目指しているものが私にも分かるような気がする。それだけでなく、私もそんなことを考えたかったし言いたかったし、目指したいと思っているんだ。そう思えることに私は激しく打たれるのかもしれません。
感動的な作品というのはいくらでもありますし、私もやはりそういう作品に触れればそのたびに盛大に感激するわけですが、内田作品は単に感動的であるというわけではないのです。そこで描かれているドラマは必ずしもドラマチックではなく、むしろ淡々と何気ない描写に終始していますが、しかし絶えず強く私に問いかけてくる。始めから終わりまで問いかけ続ける。その問いかけに、私の心はどうしようもなく震えてしまうのでした。

そうだ。これは問い続ける人の物語でした。蒼生人はなんだろう、なんなのだろうと問い続けながら、彼のそばを過ぎて行くだけのものを想い、愛そうとします。これはひとつの理想です。あまりに美しく透明な理想です。なにかが溢れてくるような気持ちになりますね。

あー、でも、一度しか読んでいないので、到底読みこなすことはできませんでした。考察を試みてみたものの、これが限界である上に、あまりに不完全なものにしかならなかった。読み返したい。何度も読み返したいよう!



とりあえずまだ読みが足りないという自覚はあるにせよ、私はここ1カ月ほどの間にいくつかの内田善美作品を読んでみて、特に『星の時計の~』『空の色ににている』の2作品は、私がこれまでに読んできたどんな漫画作品とも似ていないということに気がつきました。選ばれているテーマについてもそうですが、物語の展開の仕方と言うか、全編を覆い尽くしている空気そのものが、随分と特殊に感じます。

そう。これまで読んだどの漫画にも似ていません。むしろ近いと感じるのは、小説でしょうか。私が好んで読んできた小説の世界に近いです。漫画と小説で、そこで描かれていることにどのくらいの差があるのかを区別したり、その差を数値的に説明することはできそうにありませんし、まして優劣をつけるようなつもりもありませんが、単に感覚でものを言うならば、『空の色ににている』はまるで小説を読んでいるような感じがしました。しかし紛れもなく漫画であることもたしかです。なんだろうな、この感じは。時々やたらと長い台詞が挿入されたりしているからかしら。でもそれだけでもないような。

いずれにせよ、その文字と絵を追うと、一息にその深いところにまで連れて行かれるような、『空の色ににている』はそういう作品でした。そのわりに深く理解することを阻まれている己の能力不足が恨まれますが…。



それにしても、こんな作品も存在しうるという漫画の奥深さには感心します。素晴しいなあ! 漫画ってやっぱり面白いですね♪