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『栞と紙魚子』

2011年09月09日 | 読書日記ー漫画

諸星大二郎(朝日新聞社)


《内容》
奇々怪々な人々が棲息し、摩訶不思議な事件が頻発する胃の頭町を舞台に、女子高生コンビの栞と紙魚子が大活躍する、諸星大二郎の異色シリーズの待望の文庫版。


《この一文》
“「えーと…どこかで会いましたか……?」

「菱田きとらです。去年の撲殺社のパーティーでお会いしました……」

「あ……あの詩人が二人と評論家が一人血まみれで病院に運ばれたパーティー……」”





文庫版の『栞と紙魚子』の2巻と3巻を持っています。夏前のことでしたが、なんとブックオフでそれぞれ100円で売られていて、速攻で救出してきました。私はあまり諸星大二郎さんの漫画を読んだことはありませんが、kajiさんによると、この『栞と紙魚子』がすごく面白いらしいということだったので。買ってきて読んでみましたが、なるほど、面白い!



面白い。

それはたしかに面白いのですが、どこがどのように面白いのかと言えば、ちょっとうまく言えません。異常。異常ですね。異質とも言えるか。不気味だけれども、それほどには恐ろしくない不気味さと(ときどきすごく恐ろしいけれども)、奇妙なユーモア。主人公の女の子たちの周りでは次々と奇怪な事件が起こるのですが、何が奇怪なのかしまいには分からなくなるほどに、物語が全体として奇妙です。ちょっとついていけない。どこから突っ込んでいいのやらサッパリです。しかし、面白い。うーん、変だなあ!

まず、2巻の最初からしておかしな感じでした。栞さん(注:美少女)が、「行き倒ればったり(行き当たりばったり)」とか「ノリかけたウニ(乗りかけた船)」などとやたらめったらと駄洒落を連発し、えっえっ?? と思う間もなく、蔦屋敷の友子さんは包丁を振り回しながら「人肉バーベキューパーティー」と叫び回っているし、怪しい「キクラゲ男」が登場するわ、クトルーちゃんは川の上を走っているわ、段先生はそれを追いかけてるわで、もう何が何やら。世界が異常過ぎて、唖然とします。

もうひとりの主人公である紙魚子(しみこ)さんは古書店の娘なので、2、3巻のなかには古本を題材にしたお話もたくさんありました。本に食われそうになったり、本の渦に飲み込まれそうになったり、古書にまつわるものはどこか怨念めいた物語が多いですね。本を無限に集めて積んでしまうような人にはヒヤリドキリとする場面多数。


この栞さんと紙魚子さんですが、レトロな服装をしているし、舞台である胃の頭町もどこか懐かしい雰囲気のする町並みであったので、私はてっきり古い時代の作品なのかと思っていたら、なんと3巻の冒頭では携帯電話で話す紙魚子さんに遭遇! びっくり。どうやら現代らしい。巻末の初出を見たら、諸星さんがこれらを描いたのは、2000年前後のことでした。つい最近じゃないか……異空間すぎて分からなかったわ。時代を超越していますね。


さらに、登場人物のほとんどすべてが風変わりで、とくに変わっているのが「段先生一家」でしょうか。作家の段先生と、その奥方、お嬢さんの三人が、とにかく変わっています。

段先生は普通の中年男性に見えますが、奥さんが凄い。巨大な顔だけの人物です。コマに大きな顔だけが登場するのですが、それが段先生の奥さんなのです。何者なのかは分かりません。2巻から読み始めた私は「これは1巻から読まなきゃ分からないのかな?」と考えましたが、kajiさんに聞いたら1巻から読んでも分からないだろうとのこと。なるほど…… しかし、愛らしい性格の、たいへん魅力的な人物でありますね。
娘のクトルーちゃんもかなり激しい感じ。雷に打たれたりしてました。そしてパワーアップ、みたいな。でもいつも元気溌剌ほがらかで、愉快な人物です。

そして、その段先生に一方的に熱烈な思いを寄せている女流詩人の「きとら」さん。きとらさんが凄過ぎて、私は圧倒されました。すさまじく突飛な人物設定です。代表作は『殺戮詩集』……ふふふ、ははは。段先生を追いかけて(ストーキング)、野宿、ムルムル(←公園などで見かける謎の生物)の鍋を食べて生きています。パワフル過ぎるな。いやー、すごい。青空ムルムル鍋パーティーの話は爆笑だったわい。撲殺社とか絞殺社といった出版社と関わり合いが強いようですね。なるほど!!




さてと……まとまりません。私にはまとめられません。まとめられるわけがない。とにかくものすごいものを読んでしまったようです。連作短篇集なので、気軽に楽しく読むことができます。
私としては2巻の『魔書アッカバッカ』が面白かったな。それから『きとらのストーカー日記』が最高だった。『頸山の怪病院』は、私はこういう怖い夢を見たことがあるので、メチャクチャに恐ろしかったです。他のお話も気になるので、今度この『栞と紙魚子』のシリーズは全巻揃えることとしよう。