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『時をかける少女』

2006年09月19日 | 読書日記ー日本
筒井康隆 (「筒井康隆全集 第4巻」所収 新潮社)


《あらすじ》
理科実験室で試験管の割れる音がした。誰もいない実験室で、芳山和子はふしぎな香りをかぐ。それから彼女の身には奇妙なことが起こりはじめた。


《この一文》
” それは、すばらしいかおりだった。和子はそのにおいがなんなのか、ぼんやりと記憶しているように思った。--なんだったかしら? このにおいをわたしは知っている。--甘く、なつかしいかおり……。いつか、どこかで、わたしはこのにおいを……。 ”



このあいだ観た劇場アニメ版の原作です。お、面白い。ずいぶん昔のお話ですが、なんというか、全然だいじょうぶです。古いけど、古くありません。「スタンド使い」になれると思っていた私は、この作品ももっと若い頃に読んでいたら、ぜったいに「タイム・リープ」にも挑戦しただろうなあ。

それはさておき、最初は意外とあっさり、シンプルに面白く作ってあるなー、という印象でしたが、何度か読み返してみると、もしかしたらすごく複雑に仕組まれているのではないだろうかという気もしてきました。引用したのは、その疑惑をひきおこす、物語の最初の部分からの一文です。うーん、面白いな。

さて、この物語の主人公は中学3年生の芳山和子という女の子。理科実験室でふしぎなにおいを嗅いだあと、どうも体の具合が悪い。ある日、ふとしたきっかけで、彼女は突然に過去へと時間を遡ってしまいます。しかし、彼女はそんなおかしなことが自分の身に起こることに耐えられません。元凶をつきとめるべく、彼女は過去へとさかのぼるのでした。

タイム・トラベルもの、あるいは超能力もののSFとしても、ときめきの少女小説としても、若者の成長物語としても楽しく読めます。分量のわりに、内容は盛りだくさんです。

このあいだ観たアニメ版もたいへんに面白かったですが、何度も映像化されるだけあって、原作は非常に魅力的でした。盛り上がるし、結末も良いし。この原作の主人公の芳山和子が、アニメ版では主人公である真琴の叔母として登場していました。原作を踏まえてアニメ版を考えると、ちょっと切なくもあるような。でも、アニメ版の彼女も、たぶんあれでよかったんだろうなあ。


そう言えば、アニメ版の公式サイトで監督の細田さんがこのようにおっしゃっていました。

「時をかける少女」には、その時々の言葉で、時々の方法で、時々の少女たちで、何度も語られるべき、世界の秘密が隠されているのだと思う。

おお、まさに。我々はこの物語のなかに、年頃の若者が未来へ向かおうとするその瞬間を何度でも見るのです。傑作です。



さあ、あとは、大林版 映画「時をかける少女」を観るぜ。原田知世さんが出てるし。楽しみ。