本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

師匠はつらいよ

2023-11-05 06:23:06 | Weblog
■本
89 愛着アプローチ/岡田 尊司
90 師匠はつらいよ/杉本 昌隆

89 主に精神疾患において、薬などの医学的なアプローチの限界や問題点を踏まえ、患者個人の尊重や発症に至った過程に対する共感などの、愛着アプローチによる治療の可能性について解説された本です。クライエントの「安全基地」になるなど、基本的には多くのカウンセリング技法で重視されている要素と重なりますが、愛着アプローチにより、望ましい脳内物質の分泌が増える可能性など、医学モデルを参照しつつ展開されている点が新鮮でした。また、発症しているクライエントだけでなく、その原因となっている周囲の人に対しても愛着アプローチを実施することにより、関係者全体の関係性及び症状が改善される点に触れられているところも参考になりました。具体的なケースや改善プログラムについて、詳細に記述されている点もよかったです。あとは、この途方もなく労力のかかるアプローチをどのレベルまで実施できるかというアプローチする側の心身ともの容量の問題と、もっとも支援が必要な人が得てしてあまり支援したくないタイプの人である感情の問題をどのように乗り越えるかが、個人的な課題だと感じました。カウンセリング的なアプローチを精神科医の中でも重視されている人がいるということがわかり、より一層カウンセリングについて学びたいと思いました。

90 藤井聡太八冠の師匠である杉本昌隆八段のエッセイです。私が杉本八段とほぼ同世代であることもあり、自分より才能も地位も上になった弟子を持つ師匠の心情を知りたくて読みました。若干の自虐も含みながら、勝負師としての矜持と弟子に対する深い愛情を共存させつつ、自身や弟子の学びと技術の向上、そして、将棋界全体の発展に重きを置く姿勢に、教えられるところが多かったです。藤井八冠の場合、杉本八段がその幼少期から知っているため、自身の子どもに注ぐのと同じような感情になっていたという面があるのかもしれませんが、嫉妬のかけらも感じられない、杉本八段の人間としての器の大きさも印象に残りました。なにより、文章がとてもお上手で、将棋やそれに関わる人々の魅力が、とてもよく伝わってきます。藤井八冠が凄まじい勢いで、タイトルを獲得し続けている時期と連載が重なっているので、あらためて藤井八冠の成長の速さも追体験できて、その偉業の重さもよく理解できました。自分より若い世代を敵ではなく(棋士は文字通り敵となることもあると思いますが)、新しい視点を与えてくれ、自分の成長につながる存在であると、捉えることが重要だということにあらためて気づかせてくれました。杉本八段がこのような心情に至ったのは、自身の学びにAIをいち早く活用した将棋界に身を置かれているからかもしれません。AIに対しても、こういった開かれた態度で付き合っていくべきなのだとも思いました。


■映画
77 恋に落ちたら…/監督 ジョン・マクノートン
78 マトリックス レザレクションズ/監督 ラナ・ウォシャウスキー

77 ロバート・デ・ニーロが気弱な鑑識官、ビル・マーレイがトリッキーなマフィアのボスを演じています。大好きなロバート・デ・ニーロがこういう映画に出ていたんだ、と思って観ました。演技の上手な二人なので、配役が逆でも成立した気がします。この二人に、歪な美しさを持つ若き日のユマ・サーマンがからみます。バッドエンドの予感が随所に漂う展開ながら、ハッピーエンドに終わったので、違和感を感じてwikipediaで調べたところ、「ロマンティック・コメディ犯罪映画」と紹介されていて、そこで初めてコメディだということに気づきました。これで、ツッコミどころ満載のストーリーだったことに納得しました。この二人はシリアスな映画でも、いつもコミカルな狂気を醸し出しているので、気づかなかったのかもしれません。男の諍いは最後は拳を交えることで解決できる、という20世紀的な世界観も、コメディということで許せてしまいました。シリアスな映画として観ると欠点だらけなので、もう少しギャグの要素を入れて、はっきりとコメディということを示してもらえれば、なおよかったと思いました。

78 2年前に公開されたマトリックス3部作の18年振りの続編です。大好きなシリーズですが、コロナの制限が厳しい時期の公開でずっと観られずにいたので、やっとフォローできました。メタ的な展開(このシリーズの特徴である現実と仮想空間の境目があいまいな世界観に加え、「マトリックス」という作品自体が大ヒットゲームとして作中で描かれています)がしつこいくらいに繰り返されるので、前半は観ていてかなり辛いですが、そこを乗り越えると、いつもの哲学的ながらも痛快なストーリーを堪能できます。ですので、前半を許容できるかどうかで評価が分かれる作品だと思います。個人的には3部作の記憶がかなりなくなっていても楽しめる、後半の親切設計は好ましく思いましたし、何より、ハイテクと肉体の躍動を見事に融合させたアクションシーンは、シンプルに観ていて気持ちよかったです。結末はかなり早い段階で予想できてしまいますが、それもご愛敬。過去3部作の結末を損なうことなく、続編としても一定の納得感のあるエンディングへと導く力技も褒められるべきです。探せば瑕疵はいくらでも見つかりますが、低予算のある種B級的な作品から始まったこのシリーズが、ここまで大きな影響力を持ったのは素直に凄いことだと思います。
コメント
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