本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

復活への底力

2022-08-06 06:55:57 | Weblog
■本
62 おかえり横道世之介/吉田 修一
63 復活への底力/出口 治明
64 人間ってなんだ/鴻上 尚史

62 不器用で野心はないが、ひたすら善意に満ちた主人公「横道世之介」を描いた作品の続編です。前作は大学生時代が描かれていましたが、本作は就職活動に失敗してからのフリーター時代が描かれています。私もバブル崩壊直後に就職活動をしていたので、この時代の空気感に戸惑う主人公に共感するところが多かったです。前作は、私も学生時代を過ごした西東京が舞台でしたが、本作は、池袋や小岩が舞台となっているところも、この時代の若者の活動エリアの変遷としてはリアルな気がします(小岩はちょっと特殊かもしれませんが)。2020オリンピック開催中の東京と、舞台が行き来しつつストーリーが展開され、過去と現在との関係性が気になり、一気に読んでしまいました。平凡な横道世之介の人生と比べて、オリンピアンや世界を股にかける社会活動家など、その知人の特殊なキャリアに、前作にも感じた創り物臭さを感じます(私の交友範囲が狭いのかもしれませんが、この本の登場人物のような人生を歩んだ知人は一人もいません)。しかし、そのような個性的な人々に平凡な世之介が与えた好影響に、しみじみとした人生の滋味のようなものを感じて、温かい気持ちになります。とても読みやすく、一種のファンタジーとして読むと楽しめる本だと思います。

63 大好きな出口治明さんの最新作です。ファンであるにもかかわらず、恥ずかしながら、出口さんが脳卒中で倒れられたことを知りませんでした。この本は、脳卒中の後遺症で右半身の麻痺と失語症が残った出口さんが、リハビリ生活の末に立命館アジア太平洋大学(APU)の学長として復帰されるまでの様子が描かれた本です。まず、私はリハビリ生活についてほとんど知らなかったので、リハビリ専門病院への入院期間が最大6か月程度ということなど(本人の希望や資金的な余裕があれば、治るまで入院できるものと思ってました)、その実態について知ることができてとても有益でした。また、失語症の具体的なリハビリについても知ることができ、そもそも「言語聴覚士」という職種すら知らなかったので参考になりました。そして、何より、出口さんの全てを受け入れつつも、強い意志を持って復帰に向けて最善の行動を取り続ける姿勢に感銘を受けました。偶然が支配するこの世界で、「人間にできるのは適応だけ」という達観した姿勢から学ぶところが多かったです。このようなリハビリ生活の描写の合間に、出口さんお得意の歴史的なうんちくやビジネスで役に立つ視点、そして、APUの紹介も巧みに盛り込まれて、いろいろな側面で学びの多い素晴らしい本です。「知識は力なり」を常に実践されている姿勢を見習いたいです。

64 鴻上尚史さんの長期連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」からテーマ別に再編集された本の一作目だそうです。本作はタイトル通り「人間ってなんだ」をテーマにしたエッセイが収録されています。リラックスされた文体で普通に読み物として面白いですし、同じテーマのエッセイを続けて読むことで、鴻上さんの人間観のようなものが浮かび上がってきて、ファンとしては興味深い内容です。鴻上さんの文章でおなじみの、「エンパシー」や「身体と精神の関係」だけでなく、あまり普段触れられることの少ない「性」(「恋愛」については多く取り上げられていますが)をテーマにしたエッセイがまとめて収録されている点が特に印象的でした。「完璧な人間や道徳的に正しい人間、やましさが何もない人間などは、そもそも存在しないと考えるのが芸術だったり芸能の基本」という言葉が心に染みました。そして、何よりこのレベルのエッセイを27年間で1200本以上量産されてきたという事実に驚愕します。


■映画
44 無法松の一生/監督 稲垣 浩

 1943年の作品ですが、カメラワークが斬新で、今観ても全く色褪せません。エピソードを淡々と時系列で連ねる構成も効果的です。主演の阪東妻三郎さん(田村正和さんのお父様)が、粗暴な人間の愚直さ、義理堅さを嫌みなく演じられていて、誰もが共感できる内容です。コミカルさとセンチメンタルさとのバランスも絶妙です。あまり使いたくない言葉ですが、「古き良き日本人」を巧みに描いた作品です(横道世之介と少し通じるところがあります)。この当時でも、こういう人物が最近は少なくなったと言われているのも、人間の過去を美化しがちな習性を表していて興味深いです。シンプルに総合的なクオリティの高い傑作だと思います。内務省やGHQの検閲/修正をいろいろと受けているようですが、こういう作品が戦前に作られていたという事実は素直に誇りたいです。
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