本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

図書室

2024-10-06 07:12:56 | Weblog
■本
85 図書室/岸 政彦
86 美人の正体/越智 啓太

85 引き続き岸政彦さんの小説を読みました。本作は「ビニール傘」に続く、岸さんの2作目の小説です。前作と比べて小説としてのクオリティが圧倒的に上がっていると思いました。複数人物のエピソードの羅列ではなく、一人の中年女性を主人公にして、その人生を真っ向から描こうとしている点に小説家としての本気度が感じられます。客観的には、さほど恵まれた人生を送っていないように見える主人公が、そのささやかな幸せな思い出を通じて、自分の人生を肯定的に受け止めている姿勢に共感しました。世の中には、自分の不幸を自慢するかのような小説やエピソードトーク(私自身もその傾向が強いです)が溢れている中で、この静かなポジティブさに考えさせられるところが多かったです。併録されている岸さんの人生を振り返るエッセイも興味深かったです。特に、千里ニュータウンについてのポジティブな描写は、同地区に住んでいる私としてはうれしかったですし、個人的にニュータウンをそのような視点で捉えたことがなかったので新鮮でした。吹田市はこのエッセイをもっとアピールすべきだと思います。

86 人によって考えや感じ方は異なるのに、「美人」については、ある一定の範囲で判断が共通する(好きになるかどうかは別の話ですが)ことに疑問を持っていたので読みました。男性は自分で子どもを産まないので、本当に自分の遺伝子を受け継いだ子どもかどうかはわからず、そのリスクを避けるために、性経験が少ない若い女性を好むため、目が大きく顔の下半分が小さい幼形化の顔を好む。同様にウエストのくびれは、妊娠可能な年齢に達していることを示すとともに他の男の子どもを妊娠していない証拠になるので、無意識的にはバストの大きさ(意識的にはバストの大きさを好む人も多いが)よりも男性は好む。女性も妊娠だけさせられて、子育てに協力しない男を避けるために、経済力のある男を好む。女性は妊娠しやすい時期にはマッチョな男性を好み(短期的な戦略として丈夫な遺伝子を残せる可能性が高い)、そうでない時期は女性的な顔の男性を好む(長期的には浮気の可能性が低く、安定的な夫婦生活を送れる可能性が高い)。などなど、人間の自分の遺伝子を残したいという本能に基づいての判断という身も蓋もない説明でしたが、説得力は高いと思いました。一方で、美人、美男子の苦労(注目されやすい、陰口をたたかれやすい、美人、美男子は性格の良さと比べて飽きられやすいので、短期的には良い面もあるが長期的な関係を築く上ではあまりプラスにならない、そもそも自分に釣り合う容姿の人は少ない)についても語られていてバランスもとられています。人間も所詮は動物であるという、ある種の諦念をもたらしてくれる本です。


■映画
82 容疑者 室井慎次/監督 君塚 良一
83 オットーという男/監督  マーク・フォースター

82 「踊る大捜査線」のスピンオフ映画第2弾です。柳葉敏郎さん演じる警視正が、殺人事件捜査上の問題点を指摘され、告訴されることから物語は始まります。正直、全く面白くなかったです。警察組織内の権力争いが背景にあるのですが、それにしては、あまりにもその駆け引きが稚拙です。こんなに目立つかたちで内部抗争が表出することはあり得ないと思います。キャラ設定上仕方がないのかもしれませんが、柳葉敏郎さんの演技は、険しい表情の一辺倒で、彼の魅力である「可愛げ」が全く表現されておらず、極めて単調です。室井慎次を告訴する弁護士役の八嶋智人さんは、なかなかの怪演ではありましたが、ただただ嫌な人間で、これまた、八嶋さんの魅力である「人懐っこいコミカルさ」が全く表現されていません。キャラ設定が強すぎて、役者さんの個性が殺されている印象です。そんな中、室井慎次側の若手弁護士を演じた田中麗奈さんは、はつらつとした演技で魅力的でした(とはいえ演技が上手とは思いませんでしたが)。このシリーズの特徴である、組織の制約と個人の思いとの葛藤を描きたかったのだと想像しますが、もう一つの特徴である、コミカルさに欠けているので、エンターテイメント作品としては、失格だと思います。

83 善人の見本のようなトム・ハンクスが、偏屈な老人を演じたことで少し話題になった作品です。最愛の相手を亡くしたことで人生に絶望し自殺を試みる老人が、周囲との新たな交流により生きる意味を見出す、という日本映画でもよくありそうな設定ですが、名優トム・ハンクスが演じると、それだけで深みが出るから不思議です。室井慎次と同様に、険しい表情が冒頭から続きますが、短気であるが故に他者の稚拙な行動を放っておけず思わず手を貸してしまうという状況を、多少の可愛げとともに、魅力たっぷりに演じられています。葛藤の細かい表現が巧みなのだと思います(一方、室井慎次は大きな葛藤表現の一辺倒)。ストーリー自体はよくあるものなので、先の展開が容易に読める点が少し残念でしたが、名人が演じる人情古典落語を観たあとのような、しんみりとした余韻が心地よいです。その地味さがハリウッド映画らしくないなと思ったら、スウェーデン映画のリメイクでした。ささやかな思い出や周囲との交流の大切さと細かい感情の機微を描いた日本人好みの作品だと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする