本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ヨーロッパ・コーリング・リターンズ

2023-02-05 06:44:45 | Weblog
■本
9 ヨーロッパ・コーリング・リターンズ/ブレイディ みかこ
10 まぬけなこよみ/津村 記久子

9 ブレイディみかこさんが2014年から2021年にかけて、さまざまなメディアで発表された、EU、英国に関する社会、政治時評が時系列で収録された本です。イギリスで生活する一労働者としての、まさに地べたの視点から、悪化する一方の格差、貧困などの問題や、かすかに感じられる社会の連帯の可能性などについて語られています。基本的には、反新自由主義、反緊縮の立場を取られていますが、右派、左派を問わず、ダメなものはダメと批判する姿勢が信用できます。ブレグジットに至る背景が(労働者側は小さくなる一方の職や福祉のパイを移民に奪われることを嫌悪して、一方、新自由主義者の方もEUという比較的小さい市場から、アメリカや中国といったより大きな市場で、もっと自由にビジネスをしたいという思いから)よく理解でき参考になりました。ブレイディさんがおっしゃるような財政支出の拡大で、社会がよくなるかは、コロナ禍の日本の状況などを見ているとよくわからない面もありますが、目の前で腹をすかして路上で生活している人がたくさんいるのに、それに対処しない政治とはなんなのか、という真っ当な怒りがとてもよく伝わってきます。コロナ禍初期に流行した、決まった時間にキーワーカー(日本ではエッセンシャルワーカーという表現の方がよく使われていたと思いますが)への感謝の拍手を贈る習慣が、コロナ禍が長引くにつれて衰退し、偽善的であるとか「拍手より資金を」といった、社会の分断の原因になりつつある、というやるせない事実なども、冷静に描写されている点もいろいろと考えさせられました。結局は、キーワーカーに適切な賃金を支払えるように、富を適切に分配する仕組みを整えるしか、社会を持続可能にする道はないのだと感じました。ダイナミックに変化が進む故に、顕在化しているイギリス社会の様々な問題に絶望的な気持ちになる一方で、そのような問題がさほど可視化されることもなく、着々と進展している日本の方がより絶望的なのかもという気持ちにもなりました。

10 津村記久子さんの、ダラダラと日々の厄介ごとを嘆いているようで、ときに人生の秘密を射抜くような鋭い視点が挿入される文章が大好きです。本作はタイトル通り、「初詣」「かるた」など、その時々の季節の言葉をテーマにした連載エッセイをまとめた本です。小学校低学年のエピソードが多く、その解像度の高い描写も含めて、津村さんの記憶力のよさに感心しました。確かに、季節を感じる思い出は、成長して行動範囲が広がってからよりも、こども時代の身近な風景と結びつくことが多い気がします。同じ大阪で育った身としては、「十日戎」や阪南市の田園風景の描写などに共感しました。私も藤が好きなので、この本で紹介されている、鳥羽水環境センターや和泉砂川の藤棚を今年は見に行きたいと思いました。


■映画
7 ブロンコ・ビリー/監督 クリント・イーストウッド

 クリント・イーストウッド監督・主演の1980年の作品。旅回りのウエスタンテイストのサーカス団が描かれています。彼の作品にありがちですが、女性の扱いが今となってはコンプライアンス的に大問題ですし、その描かれ方も紋切り型です。また、彼が演じるサーカス団のリーダーは、そのリーダーシップや射撃の腕前を背景に、強い男性像を体現していますが、やはりキャラクターとしては平板です。にもかかわらず、不思議と魅力的に感じるのは、強さの裏側にある弱さややさしさが垣間見れる、天性のルックスにあるのだと思います。彼の最近の作品にあるような、人生の苦みを湛えた深みのようなものはまだありませんが、幻想としての古き良きアメリカの共同体がポジティブに描かれていて、クリント・イーストウッドの作家性がよく表れていると思います。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 笑える革命 | トップ | アバター:ウェイ・オブ・ウォ... »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事