本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

マイホーム山谷

2022-08-20 08:08:50 | Weblog
■本
67 外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント/山口 周
68 マイホーム山谷/末並 俊司

67 引き続き山口周さんの本を。豊富な知識から導き出されるロジカルかつエモーショナルな文章が、読んでいて心地よいです。この本はタイトル通りプロジェクトマネジメントに必要なノウハウを教えてくれる本ですが、冒頭から「『勝てるプロジェクト』を見極めることが成功の最初のポイント」や「プロジェクトの成否の半分は『人選』で決まる」、などとおっしゃるなど、徹底的にリアリスティックな視点で貫かれている点が印象的です。クライアントのプロジェクトに対する「期待値コントロール」は常に私も意識してきたのですが、「関係者の期待値より高い結果に終われば『成功』であり、関係者の期待値より低い結果に終われば『失敗』」である点が、「芸術におけるプロジェクトとビジネスにおけるプロジェクトの最大の違い」であるので、「芸術のように『最高のもの』を目指す必要がない」、というように明文化していただくと勇気が出てきました。「聞くことでモチベーションを高める」ということも意識してきたので、その必要性を確認できてうれしかったです。メンバーが悩みごとを相談しやすくするために、リーダーは「いつも上機嫌でいる」べし、というアドバイスには反省しきりです。プロジェクトに留まらない、大規模組織の運営やリーダーシップについても学べる良い本です。

68 各種書評で評判がよかったのと、学生時代に山谷にボランティアに通っていた後輩がいたのを思い出して読みました。 山田洋次監督の「おとうと」という映画で、笑福亭鶴瓶さんが演じるおとうとが最期を過ごしたホスピスのモデルにもなった「きぼうのいえ」を立ち上げながら、後日、介護される側の立場となった、山本雅基さんを取り上げたノンフィクションです。もちろん、山本さんの波乱万丈の半生が抜群に興味深いのですが、それだけでなく、日本の福祉に対する問題提起や山本さんが患っている神経疾患のケーススタディとしても読める奥の深い本です。介護する側の山本さんが介護される側になったことや、ホームレス等の課題が多い山谷であるが故に、志の高いボランティアが集まり手厚い支援体制が可能となっている(なので、この山谷のモデルが他地域でも実現可能かは不明)ことなど、逆説に満ちた現実の描写が本質を突いている気がします。筆者の末並さんの当初の動機(介護の末亡くした両親の死を克服するためのヒントをもらえるのでは、という期待を持って山本さんに接触されました)から、全く違った方向に取材活動が展開することや、山本さんとその元妻とのドラマティックな出会いから別れの経緯など、人生とはつくづく思うようにはいかないものであるということも肌感覚で再確認できます。福祉に限らずあらゆる社会課題の解決には、山本さんが0から「きぼうのいえ」を立ち上げたときのような情熱がとても貴重であることと、情熱だけではその組織を維持できず、それが故に持続可能なように制度化することの大切さ、についても考えさせられます。個人の情熱とシステム化のバランスが大切なのだと思います。人間に対する理解が進んだような、謎がより一層深まったような、これまた相反する気持ちになる、不思議な魅力にあふれた本です。


■映画
47 東京リベンジャーズ/監督 英 勉
48 ミナリ/監督 リー・アイザック・チョン
49 えんとつ町のプペル/監督  廣田 裕介

47 連載中人気漫画の実写映画化ということで心配していたのですが、予想以上に面白かったです。原作を読んでいないので何とも言えませんが、完結していない原作漫画の映画化作品でかつ、タイムリープものにありがちな取って付けたような結末ではなく(そういう意味では映画版の「僕だけがいない街」は残念でした)、続編の予感をたっぷり残しつつも、単独の作品としても成立している点に好感を持ちました。こちらは原作漫画の功績だと思いますが、ヤンキー漫画定番の男同士の濃密な友情と、男にとって都合がよすぎる理想の恋人の要素を残しつつも、格差社会の閉塞感とそれを打破し得る希望を描きつつ、タイムリープものの細かい伏線回収も楽しめる点も今風だと思いました。一見ありがちなストーリーではありますが、これまでの同種の作品をよく研究して進化させた練り込まれた展開だと思います。北村匠海さんはあまり好きな役者さんではありませんが、彼も含めた俳優陣もそつのない演技をされていたと思います。続編も楽しみです。

48 アメリカに移民した韓国人家族を描いた地味な作品にもかかわらず、外国語作品ではなくアメリカ映画として、アカデミー賞主要6部門にノミネートされる(しかも助演女優賞を受賞)など、高い評価を受けたのがずっと不思議だったので観ました。高評価の要因としては、往年の西部劇のように家族愛と移民の苦労を描き切った点にあると思いました。その上で、西部劇のような大味な感情表現ではなく、アジア人ならではの家族関係、夫婦関係の繊細さが表現されている点が、アメリカ人には新鮮に映ったような気もしました。一方で、日本映画にありがちなジメっとした関係ではなく、意外とカラッとした関係である点もアメリカ人に理解しやすかったのだと思います(夫婦間も母子間も祖母と孫の間でも結構言いたい放題言って喧嘩しています)。もちろん、その評価の背景には計算されたストーリーと巧みな演技があることは言うまでもありません。「パラサイト」のようなどんでん返しや、「格差」といったキャッチーなテーマ設定もありませんが、それでも、ここまでアメリカ社会に受け入れられる作品を作れる点に、韓国エンターテイメント業界の底力を感じました。派手さがない故に、かえってそのクオリティの高さが感じられるタイプの恐ろしい作品です。

49 いろいろと事前情報が多過ぎて期待値が低かったためか、意外と面白かったです。「周囲の声に左右されず、自分の信念に従って勇気を持って一歩を踏み出すべし」というのがこの作品のテーマだと思うのですが、そのテーマ自体は共感できます。ただ、そのテーマがわかりやすく、かつ、クドいほど繰り返されている点が少し下品ですし、こども向け作品であったとしても観客を信頼していないような気がしました。相田みつをさんの詩を読んだときのような、身も蓋もないド直球さに少し戸惑ってしまいます。あと、突然背景に歌が流れて、セリフなしでストーリーが展開されるシーンが何度かあるのですが、その挿入歌のクオリティが少し低い気がしました。とはいえ、一から作り込まれた世界観は一定の説得力がありますし、「腐る通貨」などネタ元はあるものの、他の作品ではあまり見られない概念を持ち込んでいる点もユニークだと思いました。作品の世界観としては「JUNK HEAD」と共通する点が多いと個人的には思ったのですが、あちらが個人の内面から湧き出す狂気にも近い表現欲求をそれこそ周囲を気にせずかたちにして人の胸を打った一方で、こちらは、感動させようという意図を持って組織として作品をかたちにしている点が対照的だと思います。どちらがよいかは好みの問題ですし、西野亮廣さんの周囲を巻き込む力は素晴らしいとは思いますが、リンカーンの「一部の人たちを常に、そしてすべての人たちを一時だますことはできるが、すべての人たちを常にだますことはできない。」という言葉の通り、歴史に残るのは「JUNK HEAD」の方だという気がします。
コメント
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