本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

わたしは、ダニエル・ブレイク

2020-09-26 07:15:40 | Weblog
■本
85 悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 「認知行動療法」入門/中島 美鈴
86 七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV/石田 衣良

85 認知行動療法について学びたくて読みました。認知行動療法が「認知療法」と「行動療法」という、別々の理論背景を持つ治療法を統合したものということも恥ずかしながら初めて知りました。認知療法の基本である「認知のゆがみ」(出したメールに相手から返信がないと自分が嫌われているのではないかと感じるなど、事実以上にストレスとなる受け止め方をする認知の癖)や、行動療法の基本である「条件付け」(「パブロフの犬」のように、知らず知らずのうちに特定の条件で特定の反応をしてしまうこと)のメカニズムがわかりやすく説明されています。また、この認知行動療法を用いて、睡眠障害やパニック障害、社交不安障害などの解消にどのように対処していけばよいかが具体的に書かれているので、参考になります。さらに、そこから発展して、「アンガーマネジメント」(怒りへの対処)、「アサーティブ・コミュニケーション」(自分も相手も尊重するコミュニケーション)、「マインドフルネス」(いわゆる瞑想)など、現在ビジネス界でも注目度が高まっている技法についても説明されている点も実践的です。特に、「マインドフルネス」が「マインドレス」(雑念にとらわれていて集中できていない状態)の逆の概念という説明は、初めて聴いたのでわかりやすかったです。認知行動療法の現状について。網羅的にわかりやすく書かれているので、興味を持った療法について掘り下げて勉強するための入門書して最適だと思います。

86 シリーズ新作を読むたびに同じことを書いている気がしますが、とにかく、この慣れ親しんだ登場人物と出会えるだけでうれしい作品です。池袋で生じるさまざまな問題を次々に解決していく主人公のマコトは、もはや水戸黄門のような存在と言ってもよい気がします。発生するトラブルは時事ネタも交えつつ常に変化しているものの、その解決手法はいくつかのパターンの繰り返しという安定したマンネリ感も水戸黄門っぽいです。本作は、自由闊達な少女にマコトが翻弄されるなど、レイモンド・チャンドラー作品を思わせるような描写もあり楽しめました。伝統的なフォーマットと、タレントスキャンダル、出会いカフェ、億ション、加熱するネット上の承認欲求など、今風のテーマ設定とのバランスが抜群です。


■CD
14 おいしいパスタがあると聞いて/あいみょん

 前作以上にメジャー感溢れる傑作です。大半がなんらかのタイアップ曲で、ラジオなどで耳馴染みのものが多いですが、アルバムオリジナルの楽曲のクオリティも高いです。ポジティブ、ネガティブも含め、二律背反的な感情や事象を、白黒つけずに丸ごと引き受ける懐の深い歌詞が印象的です。新しいような懐かしいようなメロディも含め、この掴みどころのなさが、最大の魅力だと思います。初回限定盤についている、個人スタジオでの弾き語り音源のリラックスした雰囲気も、彼女の飾りのないキャラクターが伝わってきて、ほっこりとした気分になります。あふれる才能と時代のとの折り合いが、いい感じでついた幸福な作品です。


■映画 
81 闇金ウシジマくん/監督 山口 雅俊
82 わたしは、ダニエル・ブレイク/監督 ケン・ローチ

81 少し前に漫画やテレビドラマで話題になっていたと思いますが、全くの初見でした。そのため、タイトルからブラックコメディっぽい作品かと勝手に思っていたのですが、想像以上にハードな内容で驚きました。お金に翻弄される人間の闇の深さを露悪的に描いた、えげつない作品です。借金返済を迫られた登場人物の、緊迫感あふれるモノローグがベタではありつつも効果的で印象に残りました。主人公ウシジマが経営する闇金は、法外な金利だけでなく、暴行、拉致、監禁(さらには人殺しを匂わせる描写も)など、完全に違法行為を繰り返しているのに起訴されないのは、さすがに現実離れしています。また、テレビ版の延長線上の位置づけのためか、キャラクター説明などは若干不親切です。主人公演じる山田孝之さんが時折人生哲学っぽいことを話し、若干中和されていますが、それでも後味はかなり悪いので、ここまでヒットしたのは少し意外です。山田孝之さんを筆頭に、今でも一線で活躍されているタレントさんがカメオ出演も含め多数出演されているので、暗いテーマの割には画面が華やかなのが、その一因かもしれません(ただ、当時全盛期の大島優子さんが演じる役は、決して闇には落ちないことは予想がついたので、そういったマイナス面もありましたが)。

82 こちらも貧困をテーマにした作品ですが、質素に堅実に生きてきた人々が、病など自己責任ではどうしようもない状況にも陥っているにも関わらず、行政の複雑なルールや縦割りに翻弄され、十分な支援が得られないイギリスの状況を描いた作品です。そのような苦境に陥っているにもかかわらず、互いに支え合おうとする登場人物間の世代を超えた友情の淡々とした描写が素晴らしく、カンヌ映画祭でパルム・ドールを取ったのも納得の傑作です。また、ルール上紋切り型な対応をせざるを得ない、地方行政現場職員の葛藤もさりげなく描かれていて、弱者側の一方的な権利主張ではなく、構造的な問題であるということを示している点も、ケン・ローチ監督の老獪な手腕を感じます。日本でも最近「自助、共助、公助」という言葉をよく聞くようになりましたが、「自助、共助」ではどうにもならない状況が、確かに存在することを認識することが大切だと思いました。そういう意味では、この映画公開時の日本の宣伝コピー「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで」は、過度に「共助」を美化し過ぎていて、この作品の本質を理解していない気がします。この作品はそういう甘いものではなく、きちんと国民としての義務を果たしてきたにもかかわらず、その国から邪険に扱われた人々の怒りを描いた作品だと思います。

コメント
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