本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

チョコレートドーナツ

2020-09-12 07:43:08 | Weblog
■本
81 還暦からの底力/出口 治明
82 あらすじで読むシェイクスピア全作品/河合 祥一郎

81 ベストセラーですが、表紙に大きく書かれている「人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる!」というメッセージなど、これまでの出口さんの本の内容の繰り返しかと思い、あえて読んでいませんでした。ところが、ある動画で見た、APU(立命館アジア太平洋大学)の学長となられた経緯などの話がとても面白かったので手に取ったところ、出口さんの考え方がかなり進化されていたのに、僭越ながらまず驚きました。この本のタイトル通り、還暦を過ぎてからも絶えず学び続け、新しい仕事にもチャレンジされている姿勢に、改めて大きな刺激を受けました。内容の方も、還暦を過ぎた出口さん自身が、「ヤングサポートティングオールドからオールサポートティングオール」(若手が老人を年金などで支えるという考え方でなくて、シングルマザーなど本当に困っている人を社会全体で支える)とおっしゃったり、女性の社会参加を制度として支えるべきとし「クオータ制」(政治家や企業経営層の男女比率を一定の水準に義務付ける制度)の導入を強く主張されるなど、日本社会の改善点を切れ味鋭く提示されています。70歳を超えた出口さんが、健康のためにも元気な間は働き続けて、社会に貢献すべきというメッセージを出されていることは、少子高齢化が避けられない日本社会において、とても有意義なことだと思います。ダイバーシティを重視し、「変態オタク系」が育つ教育を推進されているAPUに、自分の子どもたちを通わせたくなりました。

82 たまにはこれまで自分が接してこなかった分野の本を、と思い読みました。人物相関図もついた親切な内容ですが、知らない作品のあらすじを読んでも、あまりピンとこないということに気づけた点が、まず収穫でした。逆に言うと、「蜘蛛巣城」や「恋に落ちたシェイクスピア」といった過去に観た映画の意味が、あらすじや当時の舞台演劇の背景(女性役も男性が演じていたということを逆手にとっての、「恋に落ちたシェイクスピア」の設定であったということがよくわかりました)を知ることにより、一層深く理解できた気がします。また、シェイクスピアがストーリーや人物設定もさることながら、音韻にとてもこだわっていたことも恥ずかしながら初めて知りました。セリフの音感の心地よさが、彼の人気の一因だったとすれば、現在のヒップホップ人気にもつながってくると思いますので、興味深いです。


■映画 
77 ぼくらの七日間戦争/監督 菅原 比呂志
78 チョコレートドーナツ/監督 トラヴィス・ファイン

77 宮沢りえさんのデビュー作ということで有名な作品です。思っていたほど出番は多くないですが、やはり、彼女の初々しい演技が一番の見どころです。また、昭和感全開の管理教育、体罰の様子は、今となっては懐かしさすら感じます。先生側の強引な教育姿勢に抗議するために、学校を休んで廃工場に立てこもった中学生とその先生たちの攻防が描かれます。立てこもった生徒の親たちが校長室に抗議に訪れた際に、生活指導っぽい先生が、親側の教育姿勢を批判するシーンがあるのですが、モンスターペアレントに悩まされている今の先生方にとっては、痛快に感じるかもしれません。良くも悪くも先生側の力が、この30年間でずいぶん弱くなったという事実に気づかされます。生徒たちが立てこもる廃工場の管理のずさんさも、ある意味昭和っぽいです。戦車までその工場には放置されていて、生徒たちがそれを用いて先生達を撃退するのですが(原作にはないそうですが、このあたりいかにも角川映画っぽいです)、日本という国のガバナンスが不安になります。いたるところにツッコミどころがありますが、それを補って余りある勢いがまだ日本にあったころの作品で、痛快ではありますが、今となっては少し寂しい気もします。宮沢りえさんが今でも、「湯を沸かすほどの熱い愛」などの名作で、素晴らしい演技で活躍されているのが、ある種の救いです。

78 ゲイのカップルが、薬物中毒の母親が捕まったため施設に送られそうになった隣室のダウン症の少年を、引き取って育てようと、周囲の偏見と闘いつつ、その少年に愛情を注ぎ続ける様子を描いた作品です。2012年の作品ですが、今ほど
セクシュアリティの議論が活発ではなく「LGBTQIA+」などの言葉がなかった時代に、これだけセンシティブな題材を真正面から取り上げた制作側の姿勢に敬意を表したいと思います。題材のインパクトだけでなく、社会に対する批判と、ミニマムな登場人物間の心の交流を、絶妙のバランスで描いた監督の演出力も見事です。ダウン症の少年はもちろんのこと、俳優陣の演技も素晴らしいです。好みが分かれるかもしれませんが、苦い余韻の残るエンディングも、このテーマを観客に考えさせる上では、適切だったと思います。観終わったあとに、冒頭のシーンの意味を考えると胸が締め付けられます。アメリカ映画界の裾野の広さを感じさせられる傑作です。
コメント
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