自然には生えないドーナツ
「ドーナツは中心が空洞です」
「それがどうしたの?」
「パティシエはいつもこの形のイメージを思い描いてドーナツを作ります」
「うん」
「では質問です。ドーナツとドーナツのイメージはどちらが先に生まれたのでしょうか?」
「ドーナツ」
「でもドーナツをイメージしなければドーナツは作れない。どう?」
「そっか。イメージが先だな」
「ところが何もないところからイメージは生まれるものかな?」
「たぶん」
「どんなふうに?」
「ないものを自然に思いつく」
「なぜか思いつく。それでいいかな」
「うん」
「ドーナツをイメージすることから、おいしいドーナツは生まれる」
「そう」
「人間がいなければ、おいしいドーナツはこの世に存在しない」
「でも嫌いな人もいるよ」
「そうだね。好き嫌いを生むドーナツは、いつも人間とともにある」
「自然には生っていない」
「ドーナツのイメージがみずから転生してドーナツになることはない。
すべては人間の創造力のおかげといえる」
「人間が存在しなければ存在しないものって、ほかになにがある?」
「え~と、学校、宿題、スカイツリー、自動車、ケータイ、新幹線、遊園地、……数えきれないな」
「モノじゃないけど、いろんなゲームやスポーツもそうだね。
自然界にストライクゾーンは存在しない」
「アンパンマンも!」
「ぼくたち人間は、ほとんどすべて自分たちで作り上げたモノやゲームの世界の中で暮している」
「なんか神サマみたい」
「おいしいドーナツと同じように、神サマという存在も創られました」
「神サマっていないの?」
「神サマに出会った人はいません、たぶん。信じることはできてもね」
「会ったことのないものをどうして信じられるのだろう?」
「カタチのないものをイメージできるのが、人間のもつ創造力だからです」
「悪魔も?」
「イエス。天使もポテトチップスもドーナツも洗濯バサミも人間の創造力から生まれてきた。
廃品回収に出したいような、がらくたも一杯あるけどね」
「拳銃、戦車、戦闘機、ミサイル、ゲンバク。
思いつかないほうがいいものもたくさんあるな。なんでだろう」
「悪と戦うため」
「だけど戦争がはじまれば、数多くの人が傷つかないではすまない。それでもオーケー?」
「戦争のない世界をイメージする」
「いい考えだね。どんなふうにイメージしたらいいと思う?」
「ものすごくおいしいドーナツを作って、みんなで食べて仲良くなる」
「おお、いいね。でもドーナツが嫌いな人がいるって言ったよね。そんな人にはどうする?」
「戦争がバカバカしくなるような、ものすごく楽しいゲームを考える」
「一つ大事なことがある気がする。限られた人だけでストライクゾーンを考えても、
みんなが共感して同意しなければ野球のゲームははじまらない。
ゲームの楽しさを全員に伝える工夫が必要だ。仲間以外にも伝わるようにね」
「嫌いな人にも?」
「好き嫌いの感情を偽ることはできないけど、嫌いなピーマンもいつか好きになるような変化も起こる。
人間にはね。その可能性を信じることはできる。象やキリンは一生草だけ食べて生きるけど、
人間は変化する。変化するいい加減さは、プラスにもマイナスにもなるけど、
プラスになる方向で創造力を使えたらいいな」
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