あなた方が、それは自由と決定論、宿命と恩寵、成熟期と思春期という
罪のない葛藤だと思い込ませようとしてもむだなことだ。……
あなた方のご託宣の背後には、悲惨な現実がある。
(ポール・ニザン『アデン、アラビア』篠田訳)
両脚のあいだに発電機をもった男女の世界を、純粋な怒りの世界、情熱の世界、
行動の世界、ドラマの世界、夢の世界、狂気の世界を、快感の絶頂を生みだし、
干からびた屁なんぞしない世界をもとうではないか。……
嘆くことをやめよ!悲歌、挽歌を追放せよ!
(ヘンリー・ミラー『南回帰線』大久保訳)
*
埋葬、弔い、合掌、墓碑名──
そうしないではいられない情動の氾濫
どこかでせき止めなければ生きて行けない
耐えることのできない感情の決壊がある
心が正気のまま留まることを望むかぎり
このいとなみの必然を否定することは到底できない
心は情動をもてなすように内なる儀式へ向かう
耐えられない経験が導く必然、不可避の作動があり
人間の歴史が積み上げた、心の、儀式の諸形式がある
そして儀式に全権を委ねて結審に至れば滅びるものがいる
そのことも俺たちは知っている
かたちにすることで本当に息の根を止めることになる
ボーダーを超えると消失する人が生きる気圏がある
この分岐点でつぶやく声がする
生の全景、全時間、全圏域を覆うことはできない
どんな儀式も回収不可能な限界線がある
ピリオドを打って墓場に封じることはできない
もう一つの内なる情動が告げる
忘れないでいるだけでは足りない
どんな記述からもこぼれていく人間の土地がある
この圏域を滅ぼすものとは戦わなければならなかった
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