ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

「人間の土地」 20230706(20221215)

2023-07-06 | Weblog

 

 


 あなた方が、それは自由と決定論、宿命と恩寵、成熟期と思春期という
 罪のない葛藤だと思い込ませようとしてもむだなことだ。……
 あなた方のご託宣の背後には、悲惨な現実がある。
             (ポール・ニザン『アデン、アラビア』篠田訳)

 両脚のあいだに発電機をもった男女の世界を、純粋な怒りの世界、情熱の世界、
 行動の世界、ドラマの世界、夢の世界、狂気の世界を、快感の絶頂を生みだし、
 干からびた屁なんぞしない世界をもとうではないか。……
 嘆くことをやめよ!悲歌、挽歌を追放せよ! 
             (ヘンリー・ミラー『南回帰線』大久保訳)

        * 

埋葬、弔い、合掌、墓碑名──

そうしないではいられない情動の氾濫
どこかでせき止めなければ生きて行けない
耐えることのできない感情の決壊がある

心が正気のまま留まることを望むかぎり
このいとなみの必然を否定することは到底できない

心は情動をもてなすように内なる儀式へ向かう
耐えられない経験が導く必然、不可避の作動があり
人間の歴史が積み上げた、心の、儀式の諸形式がある

そして儀式に全権を委ねて結審に至れば滅びるものがいる
そのことも俺たちは知っている

かたちにすることで本当に息の根を止めることになる
ボーダーを超えると消失する人が生きる気圏がある

この分岐点でつぶやく声がする

生の全景、全時間、全圏域を覆うことはできない
どんな儀式も回収不可能な限界線がある
ピリオドを打って墓場に封じることはできない

もう一つの内なる情動が告げる
忘れないでいるだけでは足りない

どんな記述からもこぼれていく人間の土地がある
この圏域を滅ぼすものとは戦わなければならなかった

 

 

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