シワに埋まった目をシワとほとんど見分けのつかないように
細い目をさらに細めながらおばばが手を振った
切りとられたひとつの時代のショットが
線路が縫うように結んだ山の重なりの向こうに消えるように小さくなり
川の流れとさざめきが木々の大海に埋まり、光が閉じられ
やがて語っても仕方がないように思われた一人の神話をつくるように
「気いつけて帰りんしゃい」
けっして身につけていないものがある
川辺のバス停で声をかけてくれた人
おばばの声、まなざしにかなうものをもたない
削ぎ落せば何もない言葉の荒地だけが残る
それがおまえかもしれない
ただ帰って来るだけでいい
何も持たずにここに来るしかない
離脱を決意しながら、遠くへ行くことはできない
そう感じた地点がよみがえることがある