ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

「エントロピー増大の踊り場」(参)

2009-04-20 | 参照

(P・アトキンス『ガリレオの指』斎藤訳2004早川書房)より

(エントロピー~変化の原動力)
変化の要因は何か。……その答えは熱力学と呼ばれる、エネルギーの変換―とくに熱から仕事への変換―を研究する科学にみつかる。……変化の自然な方向は、物質の所在であれ、エネルギーの分布であれ、位置であれ、温度であれ、無秩序の度合いが増す方向になる。秩序は自然に無秩序に崩壊し、エネルギーは弱まり分散する。好むと好まざるにかかわらず、世界は衰えつつあるのだ。……第2法則が明らかにした宇宙の原動力は、エネルギーや物質が、無秩序へと拡散する、とどめようのない崩壊である。

どんな変化も孤立した活動ではない。変化は、相互に関係した事象のネットワークなのである。ある場所で崩壊へ向かう変化が起きても、その結果がほかの場所の構造を秩序立てることもある。

われわれの周囲の世界では、花びらが開く、木が伸びる、考えが形成されるという複雑な事象が起きて、乱雑さが減っているように見えるが、……その作用が、どこかほかの場所に、より大きな乱雑さを生みだしている。……エントロピーの変化全体の総和……全体としての乱雑さが増す……われわれは、いやすべての構造物は、カオスすなわち乱雑さが、局在的に減少した存在にすぎないのである。



(蔵本由紀『非線形科学』07年集英社新書)より

(自然の「能動因」とは何か)
少なくとも地球上の現象に関する限り、そのような(熱的死の)徴候は見られません。……実は、現代物理学の知見からは、このような能動性の原因をことさら考える必要はないのです。坂を転げ落ちる車を押しとどめて、それを押し上げるような力を考える必要はないのです。それどころか、この活動性の源は、先ほど述べた「すべてのものを熱平衡へと駆り立てる熱力学的な力」そのものであるといえます。つまり、エントロピーの生成をうながし、構造や運動の消失へと向かわせるこの駆動力が、同時に構造や運動を生み出す力なのです。

限られた量のエネルギーの下では、それぞれの物質内の原子分子のざわめきは十分におだやかなので、物質としての個性を優に保持することができるのです。……私たちを取り囲む低エネルギー世界では、たとえエントロピーが増えきっても、万華鏡のような物質的多様性を享受できるのです。
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