ルーマニア・ランニングライフ★Romania Running Life★

ダーリンはルーマニア人、マラソンシューズ゛と共に過ごす首都ブカレストでの日々。東欧の神秘ルーマニアを探索中+ラン遠征。

ガラス芸術に日本のブランクーシを見た

2009-11-12 | ルーマニア・ブカレストの日常

 
2日連続で訪れることになった「atelier 35」、今開催中の個展は日本から「TETS OHNARI EXHIBITION – Glass sculpture & space 」、若きクリエイター大成哲さんの作品展。

足しげく通ったのは、初めて見るガラス芸術とともに気さくに話をしてくださった人柄が気に入ったのと、次の日にテレビの取材が来るというので、もっと詳しく話を聞きたくなったから。
 


今回展示中の2作品は、ともにこちらへ来てから2週間ほどで仕上げたというガラス作品。ひとつは高さ190センチもあるというガラスに描かれた世界地図。私達に見慣れた、日本が地図の中心に描かれたもの。
 


一見してガラスに彫ってあるのかと思ったけれど、「これはガラスのヒビ(crack)。」軽妙なヒビから、亀裂ともいえる深いヒビ。これらを自由にあやつり、表現するのが彼の芸術作品。照明効果で、周りが暗くなってからのほうがきれいに見えます。
 
手法は、1枚のガラスにヒビで世界地図を描き、表裏にそれぞれガラスを貼り合わせ、3枚重ねにして仕上げるというもの。工房をのぞかせてもらうと、大きく割れたガラス板。そのうえには8割ほど世界地図が完成しているのですが、ひとつの手順で誤ってヒビが亀裂以上になってしまい、割れてしまったのです。一瞬のタズナの引き具合で、あっという間に割れてしまうガラス。
 


初めて見るガラス芸術とその作風に見とれていると、作者の大成さんは本当に気さくに、ど素人の私のぶしつけな質問に答えてくださいます。 
 
1980年生まれの若きコンテンポラリー作家、まだまだ何もかもが模索中。作品のコンセプトは心の中にあるけれど、後付けのような感じかな、と。芸術作品には、表現したいもの、いわゆるコンセプトがあるものだけれど、彼にとってはそれは理由付け。と言いつつも、さらにていねいに作品を説明してくださいました。
 
まず、白い紙に一本の線を引くと、その線によって分かれた空間を見ます。描いたのは線だけれども、その線よりもふたつに分かれた空間を見ることになるのです。主体よりも客体(=主体を補足するもの)を見せたい、客体を見せることによって主体が引き立つ、と。
 
なるほど、たしかにそうです。たくさんの曲線で描かれた地図。引いてあるのは線だけれども、普通はその中の空間、つまり国の形の内側を見ます。彼の作品の場合、世界地図を描くのはヒビ、細かな直線の連続。線があることによって、空間が浮き立ってくるのです。
 
たとえばこんな話も。ある日あるパンを食べたときに、「まずい」と感じたとすると、それは、昨日もっとおいしいパンを食べていたから、その日のパンをまずいと感じたのかもしれない。もしかしてお腹いっぱいだったのかもしれない。何を主体にしてものを考えるかによって、受け取りようが変わってくるのです。
 


彫刻は、空間の中に立体を置くもの。立体を置くことにより空間が変わり、空間が浮き立ってくるのです。地図は2次元、線を引くことにより空間が浮き立つもの。アトリエ内は3次元。そこに作品を置くことによって、アトリエ内に意味を持たせることが出来ます。
 


今回彼の作品のもうひとつは、ギャラリーの4隅に立体的に置かれたガラス板の連続。曲線を描いて割れています。割れたガラス板がさらに砕かれ、下に破片となって落ちている(=意図的に置いてある) ので、見学にも注意が必要。ガラス板で描かれた曲線はルーマニアの形。ギャラリーいっぱいにルーマニア地図を描いているのです。
 


アトリエの中に居るとこの作品ガルーマニアの地図であることがわかりづらいけれど、離れたところから見ると、きっと判りやすくなるのです。これは彼自身の体験、日本の外に出たとき(=2年間チェコの大学で勉強されています)に日本のことが気になり、日本の中にいたときよりも良く見ることが出来るようになることから来ています。
 
たとえば一個のリンゴを見るとき、その形(=りんごそのもの)を主体とすると、それまでに農家の人が手間隙かけて肥料などをあげて育てていたのは、客体。ガラスで形作られたルーマニア地図が主体ならば、下に落ちているガラスの破片は客体。ルーマニア地図を作るためにこれだけのガラスを割って下に落としたのだよ、と。


 
視覚芸術(visual art)としてのガラス作品、単純に見た目を良くするための演出もあるそうです。たとえば、人があっと驚くような大きなものを作ること。ガラスの世界地図は、高さ190センチもあります。また、上部に細長いライトを取り付け、上から明かりを当てるのがベストの演出、とのこと。
 


「こんなに大きくて割れやすいものを、個展が終わったらどうするのですか?」~これまたぶしつけな質問に、「チェコに、留学時代の友達がいるし工房もあるので、そこに運んでいく。」とのこと。でもポロリと、「運ぶのも大変だから、誰かここで、お金持ちの人が買ってくれないかな。」とも。
 
実際のところ、この展覧会のオープニング・パーティで、この大きなガラス細工の世界地図を見て気に入った人から、「もう少し小さめのものを作ってほしい。」と注文があったそうです。その芸術作品がいったいどれ位のお値段なのかは、さすがの大阪のおばちゃん、ワタクシ、マドモワゼルといえども、お尋ねできませんでした。
 


彼の今回の個展は、日本のコンペで招聘金を勝ち取ってのもの。そしてこの「atelier 35」での作品を見て、さらにブカレストの大きなギャラリー「H’art Gallery」から来年の個展をうちで開きませんか、というオファーが来ているそうです。
 
いま、私はその気さくなお人柄に触れて「大成さん」なんて呼んでいるけれど、将来「大成先生」となり、近寄れなくなるくらいお偉いさんになること、間違いなし!「日本のブランクーシ」と呼ばせていただきます。

ブランクーシって誰?:
ルーマニアの誇る世界的彫刻家・芸術家。詳しくはWikipediaのページをどうぞ。

写真説明:
こちらの記事の何枚かの写真の中、床に肘を付けるようにしてガラス作品を撮影されているのは大成さん。アトリエいっぱいに製作されたルーマニア地図、これは開催期間が終わってしまうと、壊すしかないそうです。
ビデオカメラが入っているのは、テレビの取材風景。




 ランニング部門⇔⇔⇔にほんブログ村 海外生活ブログ 東欧・中欧情報へ海外ブログ部門
↑↑いつもご声援ありがとうございますm(__)m↑↑