待機児解消のために足立区は認可保育園をつくらず、待機児を解消するとしていますが、保育の質が子どもの人生を変えるという観点から認可保育園の必要性を考えてみたいと思います。
「保育の質」の研究ーアメリカ1984年
1984年アメリカで、『保育が人生を変えたChanged Lives』と題する研究報告書が発表されました。
折しもアメリカでは、共和党・レーガン政権の下、生活関連の予算をバッサリと切捨て、教育・福祉の民営化を強引に押し進める「行政改革」の嵐が吹き荒れていました。しかし、保育に巨額の税金をつぎ込むのはムダ使いとうそぶいていた「行革」論者は、この研究の結果に顔色を失いました。
というのも、その研究は「幼児期に質のよい保育を受けたか否かによって、その後の子どもたちの人生は大きく左右される」ことを客観的データで裏付けるとともに、保育が子どもの発達に与える長期的効果をお金に換算すると、なんと「保育は、それに要した費用の6~7倍の利益を社会にもたらす」ことを明らかにしたからです。
実証された保育の効果
その研究は「ベリー・プリスクール研究」といいます。この種の研究はわが国にはほとんど例がないのでその概要をかんたんに紹介しておきましょう。
1962年、ミシガン州のイプシランティという地方都市にあるペリー・プリスクール(三歳児・四歳児が通う就学前の保育施設)を舞台にこの実験的研究は始まりました。まず、同一の小学校区に居住する123人の幼児--いずれも貧しい、黒人の家庭で、三歳時点の知能テストの結果が平均以下という特徴をもっていました-ーが選ばれました。そして、その子どもたちを、ペリー・プリスクールでの1~2年間の半日保育を経験するグループ(以下「保育経験グループ」)と、保育を受けずに家庭で育ちそのまま小学校に入学する「家庭保育グループ」とに分けて、その後の子どもたちの発達・成長を成人する(27歳)まで追跡しました。幼児期の保育経験の有無が、その後の発達に及ぼす長期的な「効果」を見きわめようとしたのです。19歳時点でのデータをもとに結果を見てみましょう。
その結果は驚くべきものでした。
わずか1~2年間の半日保育だけなのに、しかも保育を経験してから15年以上もの年月が経過しているにもかかわらず、青年期に直面する社会的自立の課題の達成度を示すほとんどの項目で、保育経験グループは家庭保育グループに比べてきわめて良好な成長を見せたからです。
その結果の一部を表1に掲げました。基礎学力・留年率(普通学級を修了できず特別の教育を受けた年数の割合)・高校卒業率・大学進学率だけでなく、生活自立に関する就職率・福祉受給率、さらには社会的不適応を示す非行=逮捕回数のいずれにおいても統計的に意味のある(危険率5%以下)明確な差が表れました。
一部の項目ではなく、青年期の課題として重要な事項の大半で一貫して保育経験グループが良好な成長を示したということは、幼児期の保育が、子どもの発達に広範で長期的に持続する影響を与えたことを示すものとしてたいへん注目されました。しかも、この研究では、実験開始時点の子ども自身の「知能(知能テストで測定された限りでの)」や出生順位、家庭環境(両親の職業・学歴・失業率など)は二つのグループで均等になるよう調整してありました。ですから、子ども個々人の差異や家庭環境のちがいによって生じたものとは考えにくいのです。
じつは、この時期アメリカでは、ペリー・プリスクール研究と同じような追跡調査によって、保育効果を測定する研究が数多くなされ、高校卒業率・留年率・逮捕回数などの項目で同じような結果が報告されました。ペリー・プリスクール研究は、幼児期の保育がその後の人生を左右するほど大きな(プラスの)発達効果をもたらすものだということを、劇的な形で、揺るぎない事実として確認したものとして広く知られるようになったのです。
この研究をまとめた著書「大宮勇雄ー保育の質を高める」に詳しく書かれています。私たち区議団はこうした研究をもとに区議会でも足立区の認可保育園をつくらないという方針をかえさせて行く力にしたいと考えています。