読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

田原坂-小説集・西南戦争- 海音寺潮五郎 文春文庫

2011-11-21 22:26:09 | 読んだ
文庫本の帯には

60年ぶりに発見された
   未発表原稿
 『戦袍日記』初収録!

滅び行く薩摩武士の最後を
 哀切を込めて描く短編集


というわけで、11の短編からなる、西南戦争の話である。
西南戦争の薩摩側からみた話である。

未発表原稿の『戦袍日記』は、確かに生硬いものであったが、グイグイと引き込まれていく小説であった。
戦争に無理に従軍した少年が戦死した。
それは、それまで生きてきたことから見るとあっけない死に様であった。
彼らが生きていた時のことが、生き生きと描かれているだけに、やるせない。

この11編の中から私の好きなものを挙げるとしたら2編である。

「南風薩摩歌」は、薩摩の猛将・逸見十郎太(へんみじゅうろうた)が官軍の南下を防ぐために熊本の人吉に来た時の話である。
料亭の酌婦・お蔦は、みなが恐れる逸見をことごとく邪険に扱う。
みなが恐れそして敬う逸見だからこそ、わざと邪険にし続けるのである。
そして、薩摩軍は撤退を余儀なくされ、逸見は人吉を去る。
去ってしまってからお蔦は気づく。
そして、逸見を追う。
解説では「意地と愛の微妙な交情を映し出している」と、そして「二人の決別の場面描写は、典型的な薩摩男子の決別のしかたを具象化している」としている。
最後の別れの場面を描きたくてこの物語はあるのだろう、と思った。

「兵児一代記(へこいちだいき)」はユーモラスな話である。
勇猛果敢、精悍無比な快男児の椎原真平が主人公である。
無鉄砲なくせに臆病で、その割りに考えが浅い。
だから、活躍しても最後の最後に失敗をしてしまい評判を落とす。

最後には山一つを残して財産を失ってしまう。
しかし、そこまできて彼の不運は使い果たされた。
で、最後の山に「金」が発見され、彼は一躍持ち返す。
そして大正時代まで長生きした彼は、明治戊辰の戦争と西南戦争の生き残りの勇士達が集まって、酒を飲みながら追憶談を交わす行事で
「男は気でもつ、膾(なます)は酢でもつ、ちゅうじゃねか。おいの今日あるは気よ。ただ一ッ気よ」と気焔を上げた。
長生きしたものが勝つということは、昔はやっぱりあったのだ。

短編に登場する人物達は、モデルがいるとのこと(解説より)
それを小説に生き生きと描がかれている。

面白かった。
そして、久々に昔の骨のあるふわふわとしていない小説を読んだ。

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