読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

甘粕正彦 乱心の曠野  佐野眞一  新潮文庫

2011-06-07 21:22:58 | 読んだ
近頃、心がモヤモヤしている原因の一つは、この本を読んでいたからでもある。

昨年の10月に購入して、なんとなく読めないでいたのだが・・・

甘粕正彦。
といえば「大杉栄一家を殺した憲兵」という印象で、一言で言えば「嫌なヤツ」に分類していた。

映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じていたが、あれもカンジが悪い。
また、漫画「龍(ろん」に登場する甘粕もあまりいいカンジではない。

一言で言えば「アヤシイ」のである。

そのアヤシサは、大杉栄一家(大杉栄、伊藤野枝、橘宗一)(この本を読むまでわからなかったのであるが、子供<橘宗一>とは実子ではなく甥であった)を殺して、軍法会議で有罪となったにもかかわらず、更には元憲兵大尉のクセに「満州国」において大きな権力を持つこととなったことにある。

というのがこの本を読むまで私が持っていた甘粕正彦像である。(像というほどもないな)

何故、甘粕正彦は満州において大きな権力を持つことが出来たのだろうか?
ということが、私がこの本を読む動機であるといってもいい。

佐野眞一の本はこれまでも読んでいるが取材がすごい。
資料をあたり、現場に足を運び、関係者から話を聞く。
それも通り一遍ではなく、ちょっとしたかかわりのある人にまで取材をしている。

作品中では通行人的役割しかないいわば端役の人の関係者にインタビューをして、そこにも人生を感じ取る、といった手法が、たまらない。

著者は甘粕正彦に会ってはいないし、甘粕を良く知る人にも会ってはいないのに、この作品に出てくる甘粕正彦は謎は多いがそれでも厚みのある人間となって迫ってくる。

この作品を読んでいる最中はモヤモヤ感がたっぷりで、イライラもした。
また、関係者から一杯取材しているので、関係がよくわからなくなったりもした。
しかし、人間というのはそうキッパリと断じで語れるものだろうか。

誰でもモヤモヤしているものを持っているし、ある人には明るいと見えてある人には暗いと見える、それが人間ではないか、と思う。

佐野眞一の狙いは、甘粕正彦を裸にして分析することにあったと思うのだが、結局それは明確には出来なかった。
出来なかったけれども、満足しているのではないのか。

私も、甘粕正彦に関する見方が変わった。
更に言えば「人間」というものの複雑さを知ることが出来た。

甘粕正彦のすごいところは「徹底」である。

それを描ききった著者に感謝である。

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