2019年のカンヌ映画祭で韓国映画初のパルムドールを受賞したポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」を見た。とにかく面白いと大宣伝していて、確かに「面白すぎて受賞できないのでは」とまで言われただけのことはある。韓国を初め全世界で大評判になっていて、特にアメリカで好評である。アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞した。ゴールデングローブ賞では外国語映画が作品賞の対象外だが、日本時間13日に発表されるアカデミー賞では作品賞にもノミネートされるのではないかと取り沙汰されている。監督賞、脚本賞のノミネートも有力だ。

原題は「パラサイト」(寄生虫)だが、日本では「半地下の家族」という副題が付いた。キム・ギテク(ソン・ガンホ)一家は、まさに「半地下」の家で暮らしている。一家揃って失業中で、父親はタクシー運転手や「台湾カステラ」屋をやったが失敗、二人の子どもも大学受験に失敗している。「半地下」の家というのは、日本では住居としてはほとんど利用されないが、アメリカ映画なんかではよく出てくる。韓国映画でも見た気がするし、トリュフォー監督の遺作「日曜日が待ち遠しい!」では主人公が外を歩く女性の靴を眺めていた。この映画では「地上」と「地下」の中間という象徴性が生きている。
何事もうまく行かない一家にある日偶然の幸運が舞い込む。長男ギウ(チェ・ウシク)の友人の大学生がアメリカに留学することになり、富豪の女子高生パク・ダヘの家庭教師の引き継ぎを頼んできたのである。なんで大学の友人に頼まないのか。それはダヘに気があって、大学に合格できたら付き合いたいと思っているからだ。大学生じゃないギウなら、横取りの心配もないだろうし、何度も受験してるから、高校生に英語を教えられるだろう…。高台にある富豪邸に乗りこむと、そこは有名建築家が自宅用に立てたあきれるほどにステキな家だった。
(家庭教師先の豪邸)
豪邸にはパク・ヨンギョ(チョ・ヨギョン)という美人妻がいて、下の子の養育に悩んでいる。うまく取り入ることに成功したギウは、今度は下の子の家庭教師に姉のギジョンを(アメリカ帰りの画家と偽って)推薦する。そして、続いて父を運転手に、母を家政婦にと陰謀をめぐらしていくのである。2018年度のカンヌ映画祭は「万引き家族」だったが、2019年は口八丁手八丁の「詐欺師家族」だ。そこまでは予測可能だが、面白くて一気に見ていると、そこからが予測不可能の後半戦が待っている。
(カンヌで受賞したポン・ジュノ監督)
ストーリーはここまでしか書けない。いくら何でも、「戯画」と判っていても、ここまでうまく行くだろうかと思っていると、後半になって複雑な階層性が際立ってくる。世界は「高台」と「半地下」だけではないのである。そして、「格差」は服装や会話だけではごまかせない。「半地下」には「半地下の臭い」が染みついている。一見すると「努力」や「幸運」で交換可能のように見えた「高台世界」は、嗅覚で差別されて近づけない。ポン・ジュノ監督が外国で撮ったSF映画「スノーピアサー」では、列車の車両が先頭から水平に階層化されていたが、「パラサイト」はそれを現実世界の中で垂直に置き換えて見せた。
紛れもなく面白くて、徹夜明けで見ても寝ないで見られるんじゃないかという「ジェットコースター」映画だ。ヴェネツィア映画祭金獅子賞の「ジョーカー」と合わせ、2019年は「格差」をエンタメで描いた年だった。それは一つの描き方だと思うけれど、変な言い方になるが「ここまで面白くていいのか」と思わないでもない。立ち止まって考え込む時間をくれないのである。僕はどっちかというと、こういう映画より時間が少し停滞してもいいから、もう少し世界を眺めたいと思う方だ。
ポン・ジュノ(1969~)は、「殺人の追憶」(2003)や「母なる証明」(2009)などで日本でも高く評価された。デビュー作の「ほえる犬は噛まない」(2000)もとぼけた感じが好きだった。2006年の「グエムルー漢江の怪物」も迫力があるホラーだった。そのようなエンタメ色が強い映画と社会性が前面に出た映画あるが、今回の「パラサイト」は双方の資質が共に生かされた傑作だ。主演のソン・ガンホが素晴らしいのは当然だが、今回は他の役者が皆素晴らしいのに驚いた。特に美人妻チョン・ヨジョンがうまい上に美人だから見とれてしまう。女子高生ダヘよりずっと魅力的。

原題は「パラサイト」(寄生虫)だが、日本では「半地下の家族」という副題が付いた。キム・ギテク(ソン・ガンホ)一家は、まさに「半地下」の家で暮らしている。一家揃って失業中で、父親はタクシー運転手や「台湾カステラ」屋をやったが失敗、二人の子どもも大学受験に失敗している。「半地下」の家というのは、日本では住居としてはほとんど利用されないが、アメリカ映画なんかではよく出てくる。韓国映画でも見た気がするし、トリュフォー監督の遺作「日曜日が待ち遠しい!」では主人公が外を歩く女性の靴を眺めていた。この映画では「地上」と「地下」の中間という象徴性が生きている。
何事もうまく行かない一家にある日偶然の幸運が舞い込む。長男ギウ(チェ・ウシク)の友人の大学生がアメリカに留学することになり、富豪の女子高生パク・ダヘの家庭教師の引き継ぎを頼んできたのである。なんで大学の友人に頼まないのか。それはダヘに気があって、大学に合格できたら付き合いたいと思っているからだ。大学生じゃないギウなら、横取りの心配もないだろうし、何度も受験してるから、高校生に英語を教えられるだろう…。高台にある富豪邸に乗りこむと、そこは有名建築家が自宅用に立てたあきれるほどにステキな家だった。

豪邸にはパク・ヨンギョ(チョ・ヨギョン)という美人妻がいて、下の子の養育に悩んでいる。うまく取り入ることに成功したギウは、今度は下の子の家庭教師に姉のギジョンを(アメリカ帰りの画家と偽って)推薦する。そして、続いて父を運転手に、母を家政婦にと陰謀をめぐらしていくのである。2018年度のカンヌ映画祭は「万引き家族」だったが、2019年は口八丁手八丁の「詐欺師家族」だ。そこまでは予測可能だが、面白くて一気に見ていると、そこからが予測不可能の後半戦が待っている。

ストーリーはここまでしか書けない。いくら何でも、「戯画」と判っていても、ここまでうまく行くだろうかと思っていると、後半になって複雑な階層性が際立ってくる。世界は「高台」と「半地下」だけではないのである。そして、「格差」は服装や会話だけではごまかせない。「半地下」には「半地下の臭い」が染みついている。一見すると「努力」や「幸運」で交換可能のように見えた「高台世界」は、嗅覚で差別されて近づけない。ポン・ジュノ監督が外国で撮ったSF映画「スノーピアサー」では、列車の車両が先頭から水平に階層化されていたが、「パラサイト」はそれを現実世界の中で垂直に置き換えて見せた。
紛れもなく面白くて、徹夜明けで見ても寝ないで見られるんじゃないかという「ジェットコースター」映画だ。ヴェネツィア映画祭金獅子賞の「ジョーカー」と合わせ、2019年は「格差」をエンタメで描いた年だった。それは一つの描き方だと思うけれど、変な言い方になるが「ここまで面白くていいのか」と思わないでもない。立ち止まって考え込む時間をくれないのである。僕はどっちかというと、こういう映画より時間が少し停滞してもいいから、もう少し世界を眺めたいと思う方だ。
ポン・ジュノ(1969~)は、「殺人の追憶」(2003)や「母なる証明」(2009)などで日本でも高く評価された。デビュー作の「ほえる犬は噛まない」(2000)もとぼけた感じが好きだった。2006年の「グエムルー漢江の怪物」も迫力があるホラーだった。そのようなエンタメ色が強い映画と社会性が前面に出た映画あるが、今回の「パラサイト」は双方の資質が共に生かされた傑作だ。主演のソン・ガンホが素晴らしいのは当然だが、今回は他の役者が皆素晴らしいのに驚いた。特に美人妻チョン・ヨジョンがうまい上に美人だから見とれてしまう。女子高生ダヘよりずっと魅力的。