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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

女子高生マジシャン酉乃初ー相沢沙呼を読む②

2020年01月17日 23時07分57秒 | 〃 (ミステリー)
 相沢沙呼の「午前零時のサンドリヨン」(2009)、「ロートケプシェン、こっちにおいで」(2011)は、「酉乃初シリーズ」と呼ばれる。「とりの・はつ」という名前の女子高生が「探偵役」になる「日常の謎」ミステリーである。表紙を見ても、ライトノベル的な作品かなと思うと、鮎川哲也賞を受賞した立派なミステリーだ。しかし、それ以上に「青春小説」としての充実感がある。多くの若い人々に勇気について考えさせる小説だと思うから、ここで紹介しておきたい。(どちらも創元推理文庫所収。)
 
 とある(埼玉県らしい)私立高校に通う語り手の「須川くん」は、クラスの中でいつも一人でいる美少女、酉乃初に一目惚れしてしまう。ある日、姉のお供で話題になってるバーに付いていくと、そこでマジックを披露している酉乃初に出会ったのである。学校には秘密にしてアルバイトしているらしい。高校生としては超絶的と言ってもいい技術を持つマジシャンだ。しかし学校ではいつも一人でいるのは何故だろう。お昼もどこにいるのか不明で、あちこち探してしまったが…。少しずつ近づく二人に様々な「学園の謎」が降りかかる。シチュエーションも展開もお約束ではある。

 大体「サンドリヨン」とか「ロートケプシェン」って何だよと思うと、実は誰でも知ってる言葉である。ここでは書かないけれど、それが内容とマッチしている。人間関係に臆病で、傷つくことに恐れて自分を偽る青春のまっただ中の高校生。そこには「いじめ」「自殺」「進路」など若き日の悩みが尽きない。複雑に絡み合う人間関係の蜘蛛の巣の中で、不思議な幽霊騒動などを解決できるんだろうか。「ポチ」と呼ばれる須川くんが、ヘタレながら誠実に頑張って酉乃初が鮮やかな推理力を発揮する。

 そんな展開が共通する短編で構成された短編集である。「サンドリヨン」は入学早々からクリスマスまで。謎の解決とともに、二人の仲が進展するのかどうかという興味もある。高校生小説では運動部が多いが、ここでは主役の二人は部活に入ってなくて、周りは演劇部文芸部なんだけど、それが謎に関わっている。演劇部だけど、今は映画を撮っていて、廊下で撮ってるから「アリバイ」に関わったりする。酉乃と中学で因縁があったらしい演劇部の超絶美女が「八反丸芹華」(はったんまる・せりか)ってやり過ぎみたいな名前だが、それらの脇役も楽しい。

 酉乃初は何度もマジックを披露するが、著者自身がマジックの名手だという。マジックが得意なミステリー作家といえば、泡坂妻夫が思い浮かぶが、ここでは主人公が高校生だからマジックそのものが謎に関わるわけではない。むしろ「謎は謎のままにしておく方がよいのか」といったトリックをめぐる論議が興味深い。上級生を巻き込んだ劇的な展開だったデビュー作に続き、「ロートケプシェン」だが、こちらは少し変化があって、須川くんの語りの前に「女子高生の語り」が入る。その女子高生は不登校になるが、それをめぐる謎が解明出来るかが鍵。コミカルさとビターな味が微妙に混じりあう。

 クリスマスで終わった前作から、どこまで行くのかと思うと3学期も終わらない。短い3学期だが、そこには「バレンタインデー」という一大イベントがある。須川くんは酉乃から貰えるのかな。通学する高校は校則が緩いらしく、堂々とチョコが行き交うらしんだが。と思うと意外な展開のあげく、男の子が貰ったチョコが机に積まれてしまうという「事件」が起きる。僕はこの謎の解決編のミステリーとしての切れ味が一番素晴らしいと思う。ちょうどこれからの季節にふさわしい青春ミステリーだが、一作目から読まないと人間関係が判りにくいだろう。「いじめ」や「不登校」をめぐって考えさせられる小説でもある。
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