尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

深まる孤立と分断ーコロナ禍3年の総括④

2023年06月23日 22時52分58秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 コロナ禍3年の総括も、キリ無いから今回で一端終わりたい。医学的な検証はずいぶん残されていると思う。ウイルスの発生経過もまだ完全に解明されたとは言えないだろう。中国・武漢で動物(コウモリ?)から伝染した可能性が高いとされるが、自由に検証できない。中国のコロナ対応も謎が多かった。各国で死者数には違いがあったが、それは政策の違いか、それとも医学的な問題か、あるいは社会的な違いによるものか。当初はいろんな説(BCG仮説など)が出たが、結局どうだったのだろうか。

 医学的な問題も重要だが、社会的にどう対応したのかはもっと大切なのではないか。世界的なパンデミックは今までは一世代に一回経験するかどうかの大災厄だった。しかし、世界各国の往来が盛んになって、今後はもっと起こりやすくなる可能性がある。しかし、その記憶をきちんと検証して後世に伝えようという動きは少ない。むしろもう忘れたいというのが世界のホンネか。それも判らないではない。戻ってきた経済活況に乗り遅れないことが多くの人の関心になっている。

 今日(6月23日)の新聞によると、22年度の税収は過去最高を更新し、70兆円台に届くかもしれないという。企業業績は(一部を除き)完全に復調し、さらに円安やインフレを受けて見かけ上の利益が大きくなっている。財政難が続く日本のことだから、税収が多くなるのは取りあえず良いことだろう。だが同時に同じ日の新聞に、若者の自殺数を分析すると、コロナ禍において女性の自殺が顕著に多くなったという研究実績も報道されている。企業は好調でも、この間厳しい環境に置かれた人たちもいた。
(コロナ禍の自殺者)
 誤解なきように言っておくと、自殺者を性別で見ると男性の方が圧倒的に多い。それは男性の方が自殺に追い込まれやすい社会的環境があるということだ。(また「自殺」にも体力が要るという問題も大きいだろう。)しかし、男性に関してはコロナ前後で自殺に関する有意な差はなかったとされる。一方、女性の場合コロナ禍において自殺に有意な差があり、増えたのである。それは何故だろうか。想像するに、もともと経済的に大変な女性(低所得のシングルマザーなど)が多く、それらの人を支えていた外食業や観光業などにコロナの影響が強く表れたということではないか。
(G7の中で高い日本の自殺率)
 もともと日本は先進国の中で自殺率が高い。それは社会的なセーフティネットが整備されていないということだろう。この間の新自由主義的政策の積み重ねによって、人々は競争に追いやられてきた。それを当たり前と受けとめ、困難があっても「自己責任」とする風潮が強い。若い世代ほど、そのような自己責任感を内面化してしまっていて、追いつめられた人が多いのではないか。それが大きな問題となることなく、社会の中では隠されている。外食アルバイトがなくなって、大学を中途退学に追い込まれた学生も多くいたはずだ。若い世代のコロナ禍の影響はむしろ今後大きな負の問題になっていく可能性がある。
(コロナ禍の精神的影響)
 多分どこの町でも、この3年間につぶれてしまった店があると思う。いろんな理由があるだろうが、僕の町でも2019年秋に新規開店したピザ屋が2020年中に閉店してしまった。多分借金があったと思うし、もう持ちこたえられなかったのだろう。一度夫婦で食べにいったことがあったが、その店主はどうなったんだろうか。2020年には東京五輪があるはずだったから、一念発起して借金で店や民泊施設などを開いた人もたくさんあっただろう。事業に運不運は付きものだが、まさかパンデミックとは誰も予想しなかったし、それに備えた保険もなかったに違いない。

 コロナ禍が終わったことになり、外国人観光客も戻ってきた。株価の日経平均もバブル後最高値を記録している。そういうニュースばかり報じられるが、その裏で経済的困窮に見舞われた人々が多数いるだろう。もちろんそれ以前から貧富の差はあったし、それを完全に無くすことは不可能だ。だがコロナ禍に「何か」がぶつかった世代があるだろう。もう少しで大学を卒業出来たはずなのに、最後に学費を払えなくなった。夢だった店を開いた途端に休業を余儀なくされた。外食のバイトで食いつなぎながら、音楽や演劇などで成功を追いかけてきたが、もう限界と諦めた。そして、父や母をコロナで突然失って、まだ心の整理が付かない…。

 きめ細かな福祉のセーフティネットが今こそ必要だ。多くの企業は好業績なんだから、全員ではない。だが国民の中に「見えない分断」があり、孤立が深まっていると思う。スマホ代が払えなくなれば、SNSにSOSを出せない。新聞を取ってなければ、投書も出来ない。しかし、そういう人がきっと多くいると思って、マスコミや行政関係者が問題意識を研ぎ澄ますことを望んでいる。
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