尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「さよならくちびる」、心に残る音楽映画

2019年06月10日 22時24分16秒 | 映画 (新作日本映画)
 「ハルです」「レオです」、二人合わせて「ハルレオです」と始まるインディーズの女性デュオ「ハルレオ」。しかしハルとレオの仲がしっくりいかなくなり、ハルレオは今度のツァーで解散することになってる。そんな状態でスタートしたコンサート・ツァーを追ってゆく音楽ドキュメンタリー風のロードムーヴィー。しかし、ハルは門脇麦、レオは小松菜奈なんだから、もちろん劇映画である。青春映画の名手、塩田明彦が原案、脚本、監督を務める青春音楽映画の佳作だった。
 
 作中ではハルが作詞、作曲した曲を二人で歌う設定で、門脇麦が一生懸命詞を書き、ギターで曲作りをしている。歌っているのは「ハルレオ」で、吹き替えではない。だけど、さすがに曲まで自作とはいかず、劇中の3曲は本職が作っている。タイトルソングの「さよならくちびる」は秦基博、「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」はあいみょんが提供している。コンサートをやって、CDも作ってるんだから、もっと持ち歌が必要だが、見ているときは意識しない。曲と作中人物の思いが交錯し、響き合い、心を打つ。
 (コンサートシーン)
 ローディーを採用することになり、シマ成田凌)が参加する。ローディーというのは、楽器の手配や輸送、コンサート業務やミュージシャンのサポート役を指す業界用語だという。まあ昔はバンドボーイとか付き人とか言ってた仕事。ほぼ以上の三人が車で移動するか、ハルレオのコンサートシーン。最初は浜松、四日市と進むが、実際のロケは他の場所で撮っている。しかし、ラストの盛り上がるコンサートは、函館の金森ホールでロケされている。函館ロケの映画は数多いけど、この映画も忘れられない。

 かつてクリーニング屋で働いていたハルは、新入りで叱られていたレオに、音楽やろうと声をかける。最初はギターも弾けなかったレオは、どんな人生を送ってきたのか。映画は何も語らないが、次第にハルやシマの過去、背負っているものも見えてくる。ともに居場所を求めて悩んだ三人の心が判ってくる。ハルレオが歌う「誰にだって訳がある」が心に刺さる。それゆえにこそ、ハルレオは煮詰まっている。お互いに思いが届かない。ぶっきらぼうな車内のいさかいがイタい。風景も身に沁みる音楽ロードムーヴィーの魅力が詰まった快作だ。

 ロングの印象が強い小松菜奈がこの映画では短い髪が魅力的。この二人が意外に身長差があって、それも面白い。「愛がなんだ」の優柔不断男の印象が残る成田涼だが、この映画でもどうなのよと言いたい感じ。そのグズグズさが持ち味かも。ハルなくして成立しない映画で、門脇麦の存在感が素晴らしい。でも「止められるか、俺たちを」(60年代末の若松プロを描く)の時代じゃないのに、タバコ吸いすぎ。シマもちゃんと注意して欲しいな。ミュージシャンがあんなに喫煙してていい時代じゃない。

 音楽はきだしゅんすけ。撮影は四宮秀俊。脚本、監督の塩田明彦(1961~)は商業的成功作には「黄泉がえり」や「どろろ」があるが、「月光の囁き」「どこまでもいこう」の初期昨や「害虫」「カナリア」のようなシビアな作品まで、青春映画の印象が強い。そんな中でも「さよならくちびる」は大衆性と作家性を兼ね備えた魅力的な感動作になっている。
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