尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「スイング・ステート」、アメリカの田舎の選挙映画

2021年09月28日 21時00分18秒 |  〃  (新作外国映画)
 「スイング・ステート」(Irresistible)という映画を見に行った。自分で字幕のある外国映画が好きと書いて以来、何となく外国映画に行ってしまう。日本映画(映画に限らず)は身近であることから、気になるけど重いこともある。夏が暑くて9月は長雨で少し疲れたなと感じる。気軽に見られる映画ということで。まあ気軽と言ってもアメリカの選挙の話だが、コメディ仕立てなので楽しめる。

 「スイング・ステート」というのは、大統領選で民主、共和両党の支持が時々入れ替わるような州のことである。大体支持者が固定しているような州が多く、大統領選の結果はいくつかの「スイング・ステート」が握っている。中西部のウィスコンシン州はそんな州の一つだ。とある小さな町、基地が撤退して町は寂れている。経費削減のため移民に厳しい対策を取ろうとしているが、町議会の採決時に男が乗り込んできて、それは正義に反するとぶち上げる。その演説の映像がYouTubeにアップされて話題となった。

 それを見て民主党の選挙参謀を務めてきたゲイリー・ジマースティーブ・カレル)はこれだと思う。演説男ジャック・ヘイスティングスクリス・クーパー)は元海兵隊員で今は農場を経営している。そんな人物を引き込んでこそ民主党に未来がある。さっそくウィスコンシンに乗り込んで、ジャックに次の町長選に立候補しないかと誘う。一晩考えて、ゲイリーが選挙を仕切ってくれるなら出てもいいと言う。
(演説するジャック)
 ということで誰も名前も知らない小さな町の町長選で、ゲイリーは最新のプロ選挙運動を始める。民主党が勝ったことなんかずいぶん昔になる町だから、当初は全然歯が立たない。しかし、そのうち世論調査で追い上げてくると、なんと共和党も選挙のプロ、フェイス・ブリュースターローズ・バーン)を送り込んできたではないか。小さな町の選挙が全米ニュースになってしまったのである。

 泊まる宿も無い町のこと、バーの2階にゲイリーもフェイスも泊まりながら、選挙は過熱していく。ゲイリーは資金がないと勝てないと助言して、二人はニューヨークへ行って富豪のパーティに出る。一方、町ではジャックの娘ダイアナマッケンジー・デイヴィス)を中心に運動が進んでいく。町の人々も点描され、アメリカの田舎町の閉鎖的な、あるいは親密な関係性が見えてくる。
(ゲイリーとフェイス)
 監督・脚本のジョン・スチュワートはアメリカではテレビ司会者、コメディアンとして有名な人物らしい。アカデミー賞やグラミー賞の司会もやっている。映画監督としては長編2作目だという。最後にあっと驚くオチがあって、風刺が効いている。ブッシュ(ジュニア)政権の副大統領だったチェイニーを描いた「バイス」という映画を作ったPLAN Bが製作した。ものすごい傑作というわけでもないけれど、「選挙エンターテインメント映画」が存在するアメリカが面白いと思う。

 戦前のフランク・キャプラの大傑作「スミス都へ行く」、1972年製作の「候補者ビル・マッケイ」などは名作だったが、他にも幾つかある。政治家をモデルにした映画なら他にもいっぱいある。日本でも皆無ではないが(ジェームズ三木「善人の条件」など)、選挙をエンタメに出来る社会でありたいと思う。自由に立候補も出来ない国では、映画の題材にも出来ないだろう。
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