尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「アナザーラウンド」、アルコールと人生

2021年09月27日 20時58分18秒 |  〃  (新作外国映画)
 「素晴らしき、きのこの世界」というドキュメンタリー映画を見たんだけど、これはトンデモ映画だったな。うちにきのこマニアがいるから一緒に見に行ったんだけど残念だった。ということで、今年のアカデミー国際長編映画賞を受賞した「アナザーラウンド」について書いておくことにしたい。「アイダよ、何処へ?」の前に見ていて、なかなか面白い映画ながら疑問も多く書くかどうか迷っていた。

 デンマークトマス・ヴィンダーベア監督、マッツ・ミケルセン主演の映画で、ヨーロッパ映画賞の作品、監督、脚本、男優賞を受賞しているし、アカデミー賞では監督賞にもノミネートされた。どうも欧米の評価が非常に高いんだけど、技術的には確かに優れた映画だと思うが、内容はどうなんだろうか。トマス・ヴィンダーベア監督は2012年の「偽りなき者」が同じくマッツ・ミケルセン主演の怖い映画だった。北欧デンマークの寒い感じが映像にもにじみ出ている共通点がある。

 映画は簡単に言えば「アルコールと人生に関する考察」である。高校の歴史教師マーティンマッツ・ミケルセン)は妻との関係もギクシャクし、授業へのやる気も失せている。ある日学校へ行ったら、校長から親が来ているといわれる。教室へ顔を出すと保護者多数が詰めかけていて、大学へ行くのに授業が心配だと言われてしまう。同じ学校の仲良し教師4人組がいるが、同じく中年疲れが全身に現れている感じ。そんな時に中の一人が言い出す。あるノルウェーの哲学者が「人間の血中濃度を常に0.05%に保つのが理想である」と言ってるんだとか。よし、じゃあその仮説を実証してみようじゃないか。
(4人組の教師)
 学校にひそかにお酒を持ち込み、皆で飲んで測って授業に臨む。そうしたら、なんと授業が絶好調じゃないか。生徒は乗ってくるし、自分もやる気が戻ってきたみたいだ。夜勤続きで話もしなくなってる妻とは、久しぶりに子どもたちと旅行に行こうじゃないかと誘ってみる。何もかも好転し始めると、今度はもう少し血中アルコール濃度を上げてみようかとなる。やがて明らかに学校でも酩酊状態の人も出てきて。世の中はうまく行くことばかりではないのだ。そして悲劇も起こって、卒業の日を迎えることになる。
(妻と旅に出る)
 話の進行も面白いし、撮影も素晴らしい。冒頭で若者たちが飲んでいるから大学生かと思うと、デンマークでは16歳から飲めるんだと最後に字幕が出る。だから高校の話だった。大学進学も高校時代の成績で決まるらしい。そういう日本との違いも興味深い。だけど、そんなことを言った哲学者はホントにいるの? 調べたらフィン・スコルドゥールという名前が出て来たが、どんな人かは判らない。しかし、日本の酒気帯び運転の基準は「1ml中に0.3mg」で、つまり「0.03%」だという。映画ではそのまま運転してるけど、まずいでしょ。

 近年日本では教師の処分基準が厳しくなっているから、授業前に飲酒していることが発覚したら人生を失うのではないか。それぐらいなら、つまらない先生と言われているぐらい我慢である。というか、これは「ミドルエイジ・クライシス」、つまり中年の危機を扱っているわけだが、人生はままならないもので血中アルコール濃度でどうこうなるものじゃない。そりゃあ、酒は百薬の長というが、仕事中に飲んで良いものではないだろう。

 そんな気がしてしまうから、映画の設定にあまり乗れないのである。もっとも冴えない教師たちが俄然やる気が出る辺りは面白い。それを飲まずにやらないといけないわけである。学校の違いなども興味深かった。最後の卒業式が終われば、もう教師も生徒も関係ない無礼講である。何しろ法律で飲酒が許されている年齢なんだから。そんな国があるのかよという感じ。でもアルコールでは結局は何も解決しないのだ。そんなこと今さら言われなくても判っているけどと思ってしまった。
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