尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

香港映画『燈火(ネオン)は消えず』、懐古の中にある抵抗

2024年02月03日 22時36分08秒 |  〃  (新作外国映画)
 香港映画燈火(ネオン)は消えず』を見て、こういう作り方もあるなと思った。この映画は滅びゆく「ネオン」技術者の哀歓をテーマにしている。昔から香港の夜景は有名で「100万ドルの夜景」などと呼ばれていた。それは数多くのネオン広告によるところが大きかったが、21世紀になってからどんどん無くなっているという。映画の中で過去の香港が出て来て、現在と比べ昔はこんなに美しかったと慨嘆するシーンがある。「ネオン」の話なんだけど、見る側はそこに政治的な暗喩を感じずにいられない。

 新人女性監督アナスタシア・ツァンのデビュー作で、主演女優シルヴィア・チャン金馬奨(台湾で行われる中華圏全体を対象にした映画賞)で主演女優賞を受賞した。腕利きのネオン職人だった夫ビル(サイモン・ヤム)が亡くなり、妻のメイヒョンシルヴィア・チャン)は途方にくれる。そのうち閉めたはずの夫の仕事場がまだ残っていることに気付く。訪ねてみると、そこには最後の弟子を名乗るレオが住み着いていた。レオはビルの死を知らず、師匠が消えたと嘆いていた。
(ビルとメイヒョン)
 レオはメイヒョンが現れ一緒に最後の仕事に取り組もうとする。しかし、娘のチョイホンはもう香港を捨て婚約者とともにオーストラリアに移住したいと思っている。だから父親の服もリサイクルに出してしまうが、メイヒョンとレオはなんとか服を見つけ出しスマホを回収する。その間にネオン広告をどんどん撤去しようとする行政の動きや、ビルが作ったナショナル(松下電器)の広告塔が世界一大きいとギネス登録されたなどのエピソードが語られる。(ビルは架空の人物だが、香港のネオンがギネスブックに載っていたのは確からしい。)しかし、お金が続かず追い込まれていくが、レオは「クラファン」をしようと言い出す。
(メイヒョンとレオ)
 最後の仕事として頼まれていたのは、広告じゃなかった。「思い出のネオン」の再現だった。そして、二人はその仕事に全力で取り組むのだった。ところで、ネオン職人の仕事とは結局はガラス細工職人ということらしい。ガラス管を高熱の炎で熱して曲げていって表現したい字体の形にするのである。そこに気体のネオンを入れて電気で発光させる。そこにいろんな物質を混ぜることで、様々な色合いを出していくらしい。取りあえずベースとしてはガラス細工を完成させることが大事そうである。シルヴィア・チャンは金馬奨主演女優賞3回の大女優(にして監督、脚本家)だが、一生懸命ガラス管を曲げている。

 そう言えば「ネオン街」という言葉があった。昔は歓楽街のことをそう呼んでいたものだ。映画がカラーになって以来、数多くのギャング映画や恋愛映画で夜の街が背景に使われてきた。小津映画でも笠智衆や佐分利信などがバーに集うが、そのバーの名前もネオンだったろうか。「ネオン」は原子番号12,元素記号Neの物質で、1898年に発見された。1910年にフランス人技師クロードが新しい照明器具として発明したという。つまり、20世紀を代表する照明技術だろうが、ただネオンを懐かしむだけではダメだろう。日本人の技術で開発されたLED照明の方がエネルギー効率上、環境保護的観点から優れているんだと思う。

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