尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ジャック・タチ映画祭

2014年04月14日 23時33分42秒 |  〃 (世界の映画監督)
 フランスの喜劇映画作家ジャック・タチ(1907~1982)のデジタル復元された全監督作品を上映する「ジャック・タチ映画祭」が始まった。東京渋谷のシアター・イメージフォーラムで5月9日までの上映。1日4プログラムを交代で上映するけど、上映が少ない作品もある。チラシを載せておくので、拡大して確認してください。
    
 日本初公開の長編は「パラード」(1974)で、これは上映が少ない。18日までの13時30分と、5月3日から9日の11時の回しかないので、さっそく見てきた。話題の記録映画「アクト・オブ・キリング」の上映も同劇場で始まったばかりで、小さな劇場だから大混雑。ジャック・タチ映画祭も平日の昼間だというのに、席がいっぱいである。さて、「パラード」というのは、もともとはスウェーデンのテレビ局が製作したビデオ作品だそうで、フランスでフィルム変換して公開されたジャック・タチ最後の映画だという。映画の構造は「あるサーカスの記録映画」だけど、観衆も含めて演出されたもので「記録映画みたいに作られた劇映画」ということになる。ジャック・タチはロワイヤル氏というサーカスの座長という設定で、自分でもパントマイム芸を存分に披露している。喜劇人ジャック・タチはミュージックホール出身の芸人だというが、洗練された舞台芸が素晴らしい。「スポーツの印象」という持ちネタらしいが、テニスの試合やサッカーのゴールキーパーなどの「形態模写」である。また荒ラバを観客が乗りこなそうとするシーンなども面白い。とにかく良く出来たサーカス喜劇だった。

 ジャック・タチと言えば、ユロ伯父さん。「ぼくの伯父さんの休暇」(1953)、「ぼくの伯父さん」(1958)、「プレイタイム」(1967)、「トラフィック」(1971)と、自身が監督、主演したユロ伯父さんシリーズを作ってきた。最高傑作はやっぱり「ぼくの伯父さん」だと思う。カンヌ映画祭審査員特別賞、アカデミー賞外国語映画賞、キネマ旬報ベストテン2位と公開当時の評価も一番高いが、とにかく楽しい映画である。文明風刺や人生論もあれば、セットや色彩設計の素晴らしさもあるけど、それよりも「センス」としか言いようがない。若いころテレビで見て何が面白いか全くわからなかったけど、ジャック・タチの特集上映があった時に見て、素晴らしく面白いのに絶句した。(シネヴィヴァン六本木という映画館で、そこの全作品を掲載しているサイトで確認すると、1989年11月3日から、12月8日まで行われていた。)

 ユロ伯父さんというのは、言ってみれば「歩くゆるキャラ」とでも言うべき存在なので、今の方がもっと面白いかもしれない。「ぼくの伯父さん」をフランス語で言えば「モノンクル」。岸田秀と伊丹十三を思い出す人も今では数少ないかと思うけど。ジャック・タチは、体技もすれば、「存在そのものがおかしい」というチャップリンや渥美清みたいなコメディアンではあるけど、ちょっとタイプが違う面も多い。「プレイタイム」「トラフィック」などの「近未来空間」設計などの「都市」空間が面白いのである。ストーリイ的には、都会と田舎が対比され都市文明を風刺するという筋道になる。でも田園生活の賛美というより、風刺の対象である都市のセットや機械や自動車などのアイディアの方が面白すぎるのである。特に「プレイタイム」で作った「タチ・ヴィル」(タチの都市)という近未来都市のセットは有名。映画は当たらず、セットが大掛かりでタチは破産する。今では最高傑作という人もいるけど、それはどうなのかなあ。「人類史上最高の喜劇」(いとうせいこう)はほめ過ぎだと思う。

 前に見てない「トラフィック」も初めて見た。パリの自動車設計技師ユロの作ったキャンピングカーをアムステルダムのモーターショーに出品するべく出発したのであるが…。警察や事故、渋滞など様々な出来事に巻き込まれ、カフカのようにたどり着けない。警察でのキャンピングカーの説明、事故後の修理を頼む修理工場での体験など、不条理そのもののおかしさがすごい。アメリカのアポロ計画のさなかという設定で、月着陸を見た後の月世界歩行のマネがおかしい。モーターショーもヨーロッパ自動車界が一番輝いていた時代とも言え、実在の自動車会社のフロアなど豪華で面白い。これはゴダールの「ウィークエンド」と並ぶフランスの自動車風刺映画の双璧というべきだろう。とにかくジャック・タチはおすすめ。
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