尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「風の谷のナウシカ」の予言性ー宮崎駿を見る①

2020年07月04日 17時43分23秒 |  〃  (旧作日本映画)
 映画館が再開しても、席を半分に絞るなどして興業も振るわない。そんな状況を見て、スタジオジブリの旧作4本を低価格で上映するという企画が始まった。そして4本全てが興行成績ベストテンに入った。中でも宮崎駿の傑作が1位から3位を独占している。公開から時間も経って大スクリーンで見てない世代も多いだろう。この機会に見直したい人にも親切な価格設定だ。 

 僕はもともと「ジブリ映画専門館」や「寅さん映画専門館」が欲しいと思っていた。今回に続き、是非他の作品も上映して欲しいと思う。また日本語字幕付英語吹替・日本語字幕版なども上映して欲しい。作品的には一番好きな「紅の豚」や「魔女の宅急便」も見直したいところだが、それより高畑勲追悼上映を何故やってくれなかったのか。夏には是非「火垂るの墓」のリバイバル上映を求めたい。「平成狸合戦 ぽんぽこ」も見直したい。

 今回宮崎駿作品の「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」を再見した。基本的に映画は映画館以外では見ないので、ずいぶん久しぶりになる。「風の谷のナウシカ」(1984)だけは、その後80年代にもう一回見ているが、30年以上も前のことになる。今では公開当時に映画館で見たという経験も貴重なのかもしれない。3本まとめて感想を書こうと思っていたが、長くなりそうなので分けることにしたい。まずは「ナウシカ」から。

 「風の谷のナウシカ」(1984)はまだジブリ作品ではない。しかし徳間書店が製作の中心なので、実質的にはジブリ作品的である。上映当時に完成度やメッセージ性が評判を呼んで、普段アニメ映画をほとんど見ない僕も見に行った。当時はまだ日本映画は会社システムで上映されていた時代だが、この映画は「洋画扱い」で、一本立てロードショー上映された。キネマ旬報ベストテン7位に入選したが、これは長編アニメーション映画として初めてである。

 スタッフのクレジットが冒頭に出てくる。声優のクレジットはラストだが、役名が出ない。これらは「80年代的」な感じ。その頃の映画は、まだそんな風だった。今みたいに映画の終わりに延々とクレジットが出るようになったのはいつからだろう。この映画は「SFアニメ映画」という「ジャンル映画」に属している。「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」も同じかもしれないが、物語の作りは安易なジャンル分けが出来ないほどの独自な世界を形成している。それに比べれば、ナウシカは思想的独自性は高いが、世界の構造はジャンル的な「お約束」が認められると思う。
(オウムを如何にして止めるか)
 そのため最初に見た時は、評判ほど優れているとは思えなかった。しかし、「風の谷のナウシカ」は不思議なほどに「予言性」を秘めた映画である。1995年になって、僕は「オウム(王蟲)の暴走を如何にして止めるか」の映画だったことに気付いてビックリした。今回見たら、「マスクをしないと生きていけない世界」で「マスクが要らない世界をどう取り戻すか」という映画だったと気付いた。今後も新たな困難に直面した時に、「予言の映画」として立ち現れるのではないか。

 宮崎駿の映画に関しては、多くの人が様々に論じているので、今ここではその世界構造を新たに読み解こうなどとは思わない。ただ久しぶりに見た感想を書き留めるだけだが、今回見て「世界的なパラダイム転換」を象徴する映画だと思った。映画の最初の方で、「風の谷」に軍事大国トルメキアが侵攻してくる。70年代までだったら、「トルメキア侵攻にいかに抵抗するか」が中心テーマになるだろう。「サウンド・オブ・ミュージック」はその代表的な映画である。

 しかし「風の谷のナウシカ」では、トルメキアへの抵抗が主題にはならない。すでに世界は滅んでいて(千年前の「炎の七日間」)、「腐海」に呑み込まれつつある。その中で「自然を制圧して世界を救う」のか「自然と共生して世界を救う」のかが焦点になる。「反ファシズム」から「エコロジー」へという、我々の世界認識のパラダイム変換がここにあった。

 宮崎駿の映画は全部「飛ぶ教室」だと思っているが、ナウシカほど風を良く読んで世界を飛べる少女はいない。(「魔女の宅急便」では魔法を使えるが、ナウシカは風を読む。)まさに「風の歌を聴け」である。村上春樹の小説と宮崎駿の映画が、ほぼ同じ頃に世界中で受け入れられたのは何か共通性があるのではないか。「世界を救う少女」であるナウシカは、その後現実に現れたマララ・ユスフザイグレタ・トゥンベリの遙かなる先駆けだった。
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