古厩智之(ふるまや・ともゆき)監督、吉田玲子脚本の映画「のぼる小寺さん」は、滅多にない青春部活映画の快作だ。これが今年のベストワンとは言わないけれど、ああ見て良かったなあと思う映画。コロナ禍で座席が半分しかない中で、溜まった映画はどんどん劇場公開を終えて二次利用で製作資金を回収しようとしている。「のぼる小寺さん」は是非大きな画面でみたい映画だし、学校の映画教室などでも上映して多くの若者に見て欲しい映画だ。

もともとは「珈琲」という作者名によるコミックだというが、僕は知らない。その原作を「けいおん!」「聲の形」「夜明け告げるルーのうた」などの脚本を書いた吉田玲子が脚色した。今度は実写映画だが、脚本が優れている。監督の古厩智之は青春映画を軽快に撮る名手で、今度も素直に感情移入して、ドキドキしながら展開を楽しめる。
(ボルダリングする「のぼる小寺さん」)
主人公「小寺」(工藤遥、ちなみに下の名は出て来ない)は中学生からフリークライミングの選手で、高校でもクライミング部でひたすら体育館にあるボルダリングのコースで練習している。こういう施設がどのぐらいの高校にあるか知らないけれど、小寺さんは一生懸命だ。冒頭で担任の先生が、進路希望調査を白紙で出したといって数人を残している。小寺さんは翌日、「クライマー」と書いて出して呆れられる。「競技を続けながら体育系大学を目指す」とかの「現実的な進路希望」にした方がいいと教師はいう。小寺さんは「ウソを書く方がいいんですか」と言う。
小寺さんは生真面目で、少し一生懸命すぎておかしいんじゃないかと思うぐらいだ。クライミングは得意だが、バレーボールは苦手で、授業でボールを鼻に当ててしまったりする。「球技不得意系」みたいだから、確かに少し人と違っていると思う。でも、ひたすら頑張っている小寺さんを見てると、周りの人間も変わっていく。ボケッと見ていた同級生の「近藤」(伊藤健太郎)は、ヘタレ卓球部員でヘタクソなラリーをしている初心者だが次第に一生懸命練習するようになる。いつも見つめてしまって、好意を持ったのかなと思うけど、感化されてゆくのだ。
(田崎の写真を見る小寺さん)
写真が好きな「田崎ありか」、キモいと言われていたがクライミング部に入部した「四条」(よじょう)、学校に来ないで遊んでいる「倉田梨乃」、皆が皆、フランクでナチュラルに接してくれる小寺さんに感化されてゆく。そして文化祭(淵高祭と出てくるが架空の高校名)がやってくる。ここで1年2組の話だったと判るが、「動物喫茶」をやっている。(動物の格好をして接待する喫茶店で、このアイディアは使えそう。)そして見に来た男の子が持ってた風船をうっかり放してしまう。その時、小寺さんは…! このシーンのためだけでも、是非見て欲しい映画だ。
「部活映画」あるいは「部活小説」「部活漫画」は数多いけれど、ほとんどは団体競技だ。野球部、サッカー部、バレーボール部…。個人競技である剣道、柔道、相撲、卓球などでも「団体戦」を描くのが普通。文化部でも演劇、吹奏楽、書道、競技かるたなど、皆「団体競技」である。古厩監督の旧作「ロボコン」(2003)も、部活じゃないけれど学校どうしの団体戦だった。団体だと内部に上手下手があり、そこに葛藤と団結が生まれる。しかし、「のぼる小寺さん」は全く違う。ひたすらのぼる小寺さんを描くことを通して、何人かの「関係性の変容」を見つめる。
(小寺さんと近藤君)
人生にはこういうことは結構あると思う。学校でも行事が成功するときは、誰かが引っ張る姿を周りが見ている。勉強でも同じで、検定合格に一生懸命な生徒がいると、周囲も感化されてゆく。そういうことは実は人生に多いと思う。「一人でも頑張る」ことで、「ほんのちょっとでも世界を変えられる」のだ。この映画の成功は圧倒的に主演の工藤遙に拠るところが大きい。「モーニング娘。」の第10期メンバーに11歳で選ばれ、2017年に卒業とある。僕は知らなかったが、今回は3ヶ月の特訓を経て実際に登っている。伊藤健太郎も卓球でスマッシュを決めているが、クライミングは比較にならないぐらい危険だし難度も高い。この難役にチャレンジして見事に映画を支えている。いま元気をなくしている人は是非見てください。

もともとは「珈琲」という作者名によるコミックだというが、僕は知らない。その原作を「けいおん!」「聲の形」「夜明け告げるルーのうた」などの脚本を書いた吉田玲子が脚色した。今度は実写映画だが、脚本が優れている。監督の古厩智之は青春映画を軽快に撮る名手で、今度も素直に感情移入して、ドキドキしながら展開を楽しめる。

主人公「小寺」(工藤遥、ちなみに下の名は出て来ない)は中学生からフリークライミングの選手で、高校でもクライミング部でひたすら体育館にあるボルダリングのコースで練習している。こういう施設がどのぐらいの高校にあるか知らないけれど、小寺さんは一生懸命だ。冒頭で担任の先生が、進路希望調査を白紙で出したといって数人を残している。小寺さんは翌日、「クライマー」と書いて出して呆れられる。「競技を続けながら体育系大学を目指す」とかの「現実的な進路希望」にした方がいいと教師はいう。小寺さんは「ウソを書く方がいいんですか」と言う。
小寺さんは生真面目で、少し一生懸命すぎておかしいんじゃないかと思うぐらいだ。クライミングは得意だが、バレーボールは苦手で、授業でボールを鼻に当ててしまったりする。「球技不得意系」みたいだから、確かに少し人と違っていると思う。でも、ひたすら頑張っている小寺さんを見てると、周りの人間も変わっていく。ボケッと見ていた同級生の「近藤」(伊藤健太郎)は、ヘタレ卓球部員でヘタクソなラリーをしている初心者だが次第に一生懸命練習するようになる。いつも見つめてしまって、好意を持ったのかなと思うけど、感化されてゆくのだ。

写真が好きな「田崎ありか」、キモいと言われていたがクライミング部に入部した「四条」(よじょう)、学校に来ないで遊んでいる「倉田梨乃」、皆が皆、フランクでナチュラルに接してくれる小寺さんに感化されてゆく。そして文化祭(淵高祭と出てくるが架空の高校名)がやってくる。ここで1年2組の話だったと判るが、「動物喫茶」をやっている。(動物の格好をして接待する喫茶店で、このアイディアは使えそう。)そして見に来た男の子が持ってた風船をうっかり放してしまう。その時、小寺さんは…! このシーンのためだけでも、是非見て欲しい映画だ。
「部活映画」あるいは「部活小説」「部活漫画」は数多いけれど、ほとんどは団体競技だ。野球部、サッカー部、バレーボール部…。個人競技である剣道、柔道、相撲、卓球などでも「団体戦」を描くのが普通。文化部でも演劇、吹奏楽、書道、競技かるたなど、皆「団体競技」である。古厩監督の旧作「ロボコン」(2003)も、部活じゃないけれど学校どうしの団体戦だった。団体だと内部に上手下手があり、そこに葛藤と団結が生まれる。しかし、「のぼる小寺さん」は全く違う。ひたすらのぼる小寺さんを描くことを通して、何人かの「関係性の変容」を見つめる。

人生にはこういうことは結構あると思う。学校でも行事が成功するときは、誰かが引っ張る姿を周りが見ている。勉強でも同じで、検定合格に一生懸命な生徒がいると、周囲も感化されてゆく。そういうことは実は人生に多いと思う。「一人でも頑張る」ことで、「ほんのちょっとでも世界を変えられる」のだ。この映画の成功は圧倒的に主演の工藤遙に拠るところが大きい。「モーニング娘。」の第10期メンバーに11歳で選ばれ、2017年に卒業とある。僕は知らなかったが、今回は3ヶ月の特訓を経て実際に登っている。伊藤健太郎も卓球でスマッシュを決めているが、クライミングは比較にならないぐらい危険だし難度も高い。この難役にチャレンジして見事に映画を支えている。いま元気をなくしている人は是非見てください。
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