尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「アメリカン・ハッスル」

2014年02月19日 00時48分13秒 |  〃  (新作外国映画)
 アメリカ映画「アメリカン・ハッスル」を見たので、その感想。新作映画を見ても、あまり記事を書かないことが多いんだけど、今回は面白かったので簡単に。今年度のアカデミー賞で最多の10部門にノミネートされている。前哨戦のゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ部門の作品賞、主演女優賞、助演女優賞を受賞した。アカデミー賞の作品賞は、ゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞の「それでも夜が明ける」の方が強いと思うけど、男女主演、助演で4人がノミネートされた演技部門では誰か受賞するかも知れない。僕はごひいきのエイミー・アダムズの主演女優賞受賞を期待するが、ここはまだ(主演賞を)取ってないケイト・ブランシェットが、ウディ・アレンの新作「ブルー・ジャスミン」でノミネートされていて、日本公開前なので見てないけど、評判がすごくいいようだ。(今年は二人の他に、またまたまたメリル・ストリープがノミネートされている。他にサンドラ・ブロック、ジュディ・デンチ。)
 
 ところで、「ハッスル」(hustle)の意味だけど、言葉自体はハッスルしろよとか日本でも日常語で使うが、「ハスラー」と名詞化すると昔の映画の印象が強く「ビリヤード・プレイヤー」のことだと思い込んでいる人がいる。動詞では本来は「急ぐ、てきぱきとやる、張り切る」などの意味らしいが、名詞では「やり手」というところから、詐欺師、ばくち打ち、売春婦などの意味が主にアメリカで使われているようだ。チラシでは「詐欺」と書いてるけど、まあ要するに「だまし合い」というような感じの映画。一言で言えば、FBIと詐欺師が組んでおとり捜査をする話である。

 時代は70年代、実在した事件は1979年だと言うが、作中でデューク・エリントンが死んだと出てくる(1974年)。しかし、カーター政権(1976年の大統領選で当選、1977~1981)ということになってるから、まあその時期に起こった「アブスキャム事件」という政治スキャンダルの裏事情を描いた映画である。この事件は、FBIの秘密捜査官がアラブの富豪に扮して、おとり捜査で上下両院議員を捕まえたという事件だという。この映画では、最初に天才詐欺師とその愛人が捕まり、捜査官が起訴の代わりにおとり捜査への協力を求めたという事情が出てくる。アトランティック・シティにカジノを開いて雇用を増やそうと訴える市長を、アラブの富豪がカジノに出資するという与太話で引っ掛ける。パーティが開かれるが、そこに予想外のマフィアの大物が出張ってきていて…。そのパーティに連れて行ってもらえない詐欺師の妻が、どうしても連れて行けと迫り、パーティで思わぬ展開が…。

 こうして刑務所を避けるためやむを得ず始めた計画が、愛人との関係もギクシャクし、FBI捜査官はその詐欺師の愛人にひかれていって、妻が出てくるは、マフィアも出てくるはで、どんどんどうしようもない展開になって行き、最後の最後にどうなるか。というだまし合い映画だけど、「スティング」のような「きれいなだまし」ではなく、70年代アメリカの現実はもっとドロドロした誰が生き抜けるか判らない展開となるのであった。この妻が精神的に不安定で、周りの思惑を考えずに自分の感情で話をこじらせていくあたりが絶品。ジェニファー・ローレンスは去年アカデミー主演女優賞を(最年少で)取ったばかりだけど、連続で今度は助演賞を取るかもしれない。去年も精神的に不安定な役だったけど、今度も「そううつ」というか、神経症的な役柄を実にうまく演じていて見事。まだ若いのに、すごい女優だと思う。1990年生まれである。

 映画に限らないが、物語というものは、事前の予想を裏切りどんどん坂道を転がるように思わぬ展開をしていくのが、一番面白いと思う。もっともそれも脚本に書いてある通りなんだろうけど、実際に演じるのは俳優だから、俳優の身体性により納得もすれば、不満を覚えるときもある。今回はこうして事前に「思わぬ展開」と書いておいても、見るときは俳優を見てるから、改めてその時に「エエッ」と思えるに違いない。とにかく、とかく世の中はなるようになるしかない。詐欺というのは細部まで完璧にやらないといけないということだけど、FBIは所詮お役所で予算とかいろいろ自由にならないのである。

 監督、脚本はデヴィッド・O・ラッセルという人で、「スリー・キングズ」「ハッカビーズ」などを作り、ボクシング映画の「ザ・ファイター」で成功した。アカデミー賞で助演の男女優賞を取った。その映画で助演男優賞を取ったクリスチャン・ベイル(バッドマンなどをやった人)が天才詐欺師、その映画で助演女優賞にノミネートされたエイミー・アダムズ(その映画は助演女優賞に二人ノミネートされ、受賞はメリッサ・レオという人だった)が詐欺師の愛人役。一方、ラッセル監督が次に作った「世界でひとつのプレイブック」はアカデミー賞に8部門でノミネート。特に男女、主助演賞に4人がノミネートされ、ジェニファー・ローレンスに主演女優賞をもたらした。その相手役で主演男優賞にノミネートされたブラッドリー・クーパー(「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」の警官役や「ハングオーバー」の花婿の友人役など)がFBIの捜査官で、前半は詐欺師と愛人と捜査官の3人で進むが、後半から詐欺師の妻ががぜん生き生きしてくる。以上の俳優4人と監督はアカデミー賞にノミネート。

 70年代の風俗や音楽がいっぱいなのも嬉しい。冒頭に「名前のない馬」が流れるが、これはアメリカという名前のグループのヒット曲。市長がパーティで「デライラ」を熱唱するのも懐かしい。あのトム・ジョーンズの大ヒット曲。オイルショック以後の、「アラブの富豪」が欧米を席巻していた時代も今では考えられない時代相である。特に訴えるテーマがある映画でもないけど、ただよく出来たドラマで、こういうのがハリウッド映画の粋ではないかと思う。
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