尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

都知事選の諸問題③

2014年02月12日 00時23分25秒 |  〃  (選挙)
 都知事選の話も終わりたいので、最後に「田母神票問題」と投票率について。
 先に投票率の話。今回の投票率は、46.14%だった。投票率については、僕は先にこう書いておいた。
 「今回の都知事選の投票率は下がるだろうと予想できる。『脱原発をめぐって熱い論戦が繰り広げられ盛り上がる』などという人がいるかもしれないが、そういうことがあっても、『盛り上がって50パーセントを超えた』というレベルだろうから、前回に比べて10%程度は減ると見ておかないと行けない。昨年の都議選は、なんと43.5%だった。それよりは高いのではないかと思うが、やはり必ず減るだろう。」
 「近い時期に国政選挙どころか、地方選挙もない、完全に独立した選挙になったこと、一番寒い1月末から2月の選挙戦になったこと、特に都議選が終わってから半年ほどということなどを考え合わせれば、5割を超えるかどうかこそが問題

 これは僕に言わせれば、常識で判断すればだれでも判ることだと思うのだが、なんだか「幻想」を持っている人が多いようだった。何があっても都議選よりは高いという予想も含め、「一番寒い1月末から2月の選挙戦」というのが大雪という形で当たってしまったので、5割を割り込むことになった。

 今回5割を割った最大の原因は、直前の大雪である。それは多摩地区の西部、山がちの地帯で、軒並み3割台になっていることで判る。青梅、羽村などである。前々回と比べれば判るが、本来は5割、6割に行く地帯がそろって低投票率になっているのは、雪の影響としか考えられない。しかし、それらの地域はもともと人口は少ないので、全体に与える影響力から言えば少ないはずである。23区内でも大体は46%程度になっている。東部の足立、葛飾、江戸川が皆少ないが、これらの地域は新住民が多く「都民意識」が少ないうえ、都心から外れて演説会や選挙カーがほとんど来ないので、選挙をやってる気分が薄い。(実際にそこに住んでいるので判るけど、ポスター掲示板以外に選挙ムードは感じられなかった。)

 23区内でも投票率が5割を切ったのは何故だろうか。雪は確かに残っていたが、投票所まで行っていけないことはなかったと思う。そこはもっと複合的な「雪の影響」を考えないといけない。前日に期日前投票に行くつもりが行けなかったとか、当日は非番のはずが「雪かき要員」で臨時の出勤を余儀なくされたとか。この2つ目に当たった人はかなりいると思うけど、それでも何とか行こうとすれば行ける場合の方が多いだろう。結局、「弱い支持」の有権者が、「雪を理由にして投票を放棄した」ということだ。世の中には、最後まで真剣に悩んで投票先を選ぶ人もいることはいるけど、同じくらい「頼まれた候補にヒマが取れたら入れに行く」という人もいるわけである。それは支持団体の強さから言って、自民や公明(創価学会)支持者に多いはずである。それらの人が「舛添優勢」を見て、今回は行かなくてもいいのではと雪を理由にしてサボったということではないかと思う。

 従って、投票率が上がっていたら細川大逆転があったなどということはない。出口調査の結果を見ても、無党派の票も舛添が多い。有権者が「信念の投票」をする割合は、宇都宮、田母神陣営に多いと考えられる。だから、大雪ではなく5割程度の投票率だったとしても、この2陣営の票が爆発的に増えたとは思えない。しかし、細川票は確かにもう少し増えたかもしれないが、結局今回の都知事選は「前回の猪瀬433万票」が、舛添の211万票に半減したことが最大の特徴なのである。田母神や細川にある程度流れたとしても、300万票くらいはあるはずの「前回は猪瀬、今回は舛添」票の3割程度が棄権したのである。今回も衆議院選挙があれば行っただろうが、都知事選だけだから消えたわけである。

 ところで、今回の田母神候補の票は大方の予想より多かった。もっとも熱い支援者の中にはもっと取れると思っていた人もいるのではないか。街頭演説の盛り上がりだけで言えば、田母神陣営もそうだけど、細川、宇都宮陣営なども舛添陣営よりずっと熱く盛り上がっていると言われていた。地道に組織固めをしていたわけである。でも、田母神候補本人も「一定の成果があった」として、支援者の中でも「不当選挙」であり、「開票に不正があった」とまでは言っていないようである。(全部確かめていないけれど。)開票に立会人を出してるんだから、どの陣営もそういうことは言わない。それが「民主主義の成熟」であり、「戦後体制の定着」であるはずだけど。(明治時代や戦時中の選挙では不正が明確にあったことが司法により認定されている。)

 当初は田母神票が20~30万票ではないかと考えていたのだが、その後「一定の盛り上がり」が出てきたことを知り、投票率や有権者の動向によっては、3位になる可能性を秘めているのではないかと思うようになった。「評価」しているのではなく、心から恐れていたのである。実際に、千代田、中央の2区だけだが、宇都宮票を上回り、3位に付けている。台東区や墨田区の以下のような票の出方を見れば、泡沫とか惨敗とかの評をして済ますことはできない。なお、台東区は上野や浅草がある地区で、墨田区は東京スカイツリーや国技館がある地区である。
台東区 舛添30,465 細川13,654 宇都宮12,873 田母神10,603
墨田区 舛添43,318 宇都宮16,661 細川15,805 田母神12,785

 反舛添票、脱原発票がどちらかに片寄ったわけではなく、舛添が一頭他を抜くが、他の3候補は横一線の互角に近い戦いをしている。もっとも多摩地区の伝統的にリベラルな地域ではまた別。
国立市 舛添11,669 宇都宮7,263 細川6,699 田母神3,177
 そういう地区もあるわけだが、田母神陣営がかなりの得票をした「下町」地域もある。

 これは「日本維新の会」では、まだら模様でイデオロギー的にはっきりしていない部分があったのに対し、日本で初めて「極右勢力による一定程度の政治勢力」が産声を上げたという歴史的分岐点になるのだろうか。日本ではそもそも外国人移民をほとんど受け入れていないわけでヨーロッパのような「反移民」にしぼった極右政党は成立しにくい。その分、過去の歴史問題に対する「歴史修正主義」や近隣諸国に対する憎悪感情が中心テーマになりやすい。ただ、今回のように「原発大賛成」を堂々と主張するというのは、どうみても大多数の賛成を得がたいのではないかと思う。

 出口調査(朝日新聞)によれば、20代の有権者は舛添に36%、田母神に24%、宇都宮に19%、細川に11%の割合で投票しているという。30代では17%で、年齢が上がるにつれ漸減して60代以上では6~7%である。この傾向がある程度実際を反映しているとすれば、若い世代には「極右に親和感がある」というか「極右に拒否感がない」ということになる。それは何故だろう。今後様々な考察がなされるだろうが、インターネットによる運動が功を奏しているということ、「就職氷河期」や「派遣労働」など「失われた世代」に訴えが浸透しやすいなどの点がまず思いつく。僕には今はそれ以上を言う用意がない。だが、今後この支持者の中から地方議会の議員などが出てきた場合、大きな政治勢力になる可能性を考えておくべきだろう。もちろん、どうやって対抗していくべきかという観点で。
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