尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

リュック・ベッソン監督「ANNA/アナ」、華麗なスパイアクション

2020年06月24日 20時49分38秒 |  〃  (新作外国映画)
 映画館が再開されたら自分でもよく見ていると思う。それほど見たかったのかというと、そうでもない。見なければ見ないで問題はないけれど、やってるから(また閉鎖されないうちに)見ておくか程度の気持ち。暑くなってきてからはマスク着用の外出もきついが、家にいて熱中症になるぐらいなら、シニア料金で涼みに行った方が良い。

 もっと見ている映画があるが、書かなくてもいい映画は書かない。リュック・ベッソン監督の新作「ANNA/アナ」もビミョーな線上にあるが、面白いことは抜群だから書いておきたい。リュック・ベッソン(1959~)の映画を見るのも久しぶりだ。ジャン=ジャック・ベネックスレオス・カラックスと並んで、80年代にフランス映画の「恐るべき子どもたち」と呼ばれたのもずいぶん昔。「サブウェイ」「ニキータ」「レオン」などは確かにキレのあるアクションで楽しませてくれた。

 1990年、モスクワ。市場でマトリョーシカ人形を売っていたアナは、フランス人のモデル事務所にスカウトされる。パリのファッション業界で一躍スターになったアナは、多くの男に言い寄られる。中でも共同経営者のロシア人がご執心で、ついにホテルで口説かれる。アナは男の仕事を聞き出し、武器密輸もやってることを確認すると、トイレに行って銃を取り出し男を銃殺する。アナは凄腕のKGBスパイだったのである。
 
 そこから時間を遡り、両親が事故死して薬におぼれていたアナが、如何にしてスパイとなったかが語られる。以後、時間を行ったり来たりしながら、ファッション業界と殺し屋を両立させるアナの「活躍」を描いてゆく。ところがある日、CIAが絡んできて、裏切り、二重スパイ、どんでん返しの連続に。時間があちこち飛ぶ割には、説明が行き届いて訳が判らなくなることはない。むしろ、判りすぎちゃって、最後は推測できて笑えてしまう。この「やり過ぎ」的なシナリオが多分映画的には減点対象になるんだろうと思う。

 だけど見ているときは、そんなことは考えない。ひたすらアナを演じるサッシャ・ルスの美貌と壮絶アクションに見とれているしかないからだ。映画内で多くの男がメロメロになるのも無理はない。レズビアンの女性モデルにも早速親切にされているから、性別を問わない魅力なんだと思う。ちなみにロシアスパイの元締めをヘレン・ミレンが貫禄たっぷりに演じていて、アナに「男除け」になるからレズを演じろと指令を出している。

 サッシャ・ルスはロシア生まれのモデルで、ディオール、シャネルなどのキャンペーンモデルを務めたという。ベッソンの前作「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」で映画デビューしたというが、知らなかった。その後アクションの訓練を受けて、今作に臨んだ。その成果を十分に楽しめる女性アクションの傑作で、かつての「ニキータ」のすさまじさを思い起こさせる。だがアナの精神的な強さ、男に溺れない知性を強調するところなど、やはり現代の描き方になっている。欺されずに全部見抜こうなどと思わず、どんでん返しを楽しみながら見てれば納得のラスト。
  
 しかし、時代はソ連崩壊直前である。KGBもCIAもそんなに勝手に動き回れる時代じゃない。アメリカではCIAが勝手なことをしないようになっていたはずで、こんな作戦を大統領が承認するとは思えない。ソ連もペレストロイカの最中であって、こんなに米ソで殺しあいをしていたとも思えない。それは「スパイ映画」のお約束なんだろう。ゾンビ映画で、死人が動き回るのはおかしいと文句を付けてもヤボになる。日本の忍者映画で伊賀や甲賀、柳生などの名前が使われるように、スパイ映画ではKGBがCIAと抗争していないと困るのである。

 大体、90年頃にはまだ携帯電話もほとんど持ってなかった。そう見ればおかしなシーンは多いけれど、そんなことにこだわるなという映画である。撮影、編集、衣装なども見事だが、やはり脚本、製作、監督を一人で兼ねるリュック・ベッソンの手腕。僕は十分に楽しんだし、サッシャ・ルスのアクションに惚れ惚れした。
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