goo blog サービス終了のお知らせ 

尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

トランプvs.ゼレンスキー会談「決裂」の本質ー「トランプ2.0」考⑥

2025年04月08日 21時47分03秒 |  〃  (国際問題)

 ちょっと旧聞になるけれど、トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が2月28日に会談して「決裂」したという出来事があった。テレビカメラの前で首脳同士が口論するという「前代未聞」の事態だった。その時に書いても良かったが、まあ完全な別離にはならず、その後少しは「修復」されるだろうと思ったし、時間をおいて考える方が良いかなと思った。今回「トランプ2期目」をまとめて書いているので、しばらく書いてないウクライナ戦争の行方を含めて書いておきたい。

(2019年のゼレンスキー訪米)

 まず最初に写真を載せておきたい。2019年5月に大統領に当選したゼレンスキーは、9月に訪米し1期目のトランプ大統領と9月25日に会談した。その時点で、ゼレンスキー大統領は当然「スーツ姿」だった。今回の訪米時に、会談途中で米側の保守派メディアの記者が「なぜスーツを着ないのですか。あなたはこの国の最高レベルのオフィスにいるのに、スーツを着るのを拒否している。スーツは持っていますか?」と「失礼」な質問をしたけれど、すぐに画像を検索出来る2019年時の訪米写真を知らないのか? 知らないならば「首脳会談取材記者として無知」だし、知ってて質問しているならば「主権国家の元首に対して失礼」である。

(2025年のゼレンスキー訪米)

 今回の会談では、というか戦争後のあらゆる公的な場でゼレンスキー大統領は、常にスーツではなく「胸にウクライナの国章が入った黒い長袖シャツ」などを着用している。たとえ外国を訪問している最中であっても、「今は平時ではなく、常に戦場の兵士と連帯している」と示すためだという。というか、そんな説明をしなくても、「常識」というか「良識」というか、「普通の感性」があれば、そんな事情と心情は察することが出来ると僕は思う。「スーツは持ってないのか」と反応する記者がいるなんて!

 だけど、ここにある種「トランプ時代」の内情をうかがうことが可能だと思う。トランプ大統領はずっと「ロシア寄り」の発言を繰り返してきた。ウクライナへの武器援助を削減する意向もずっと示している。「アメリカに感謝せよ」と言われても、民主主義の約束事して前大統領が決めた支援であっても、バイデン個人のお金ではなく米国民の税金なんだから、後任の大統領にも「感謝」の意と伝えるわけである。しかし、明らかなロシア寄りのトランプ個人には、やっぱり感謝する気持ちは薄れるだろう。しかし、トランプ政権は「トランプ個人への忠誠」を求める集団だから、ゼレンスキーの言動(服装も)は「不敬罪」に見えるのである。

 その会談でくちばしを挟んできたのがJ・D・バンス副大統領である。大統領どうしの会談で副大統領が口を挟むのは「越権」行為である。恐らくはそのような「先制攻(口)撃」の役割を与えられているのだろう。すっかり「忠臣」に成り下がって(成り上がって?)いるのが、不気味である。記者に公開された会談なんだから、通常は儀式的応答だけのはずだ。もしかしたら「仕組まれていた」のかもしれないし、ゼレンスキー側が「仕掛けられていた地雷を踏んだ」のかもしれない。そこら辺の真相は長く判明しないだろうが、今後もトランプ政権の役割分担構造は気を付けて見て行く必要がある。

 ところで、トランプ大統領は当初は大統領就任前にも、ウクライナ戦争を(少なくとも)停戦に持っていくような発言をしていた。その後はそんな簡単なもんじゃないと気付いたのか「イースターまで」と言っていた。今年のイースター(復活祭)は4月20日なので、とても間に合いそうもない。トランプ大統領は「自分が大統領だったら戦争は起きなかった」と何度も発言してきたが、それはどういう意味なのだろうか? 「ウクライナはロシアに与える」という意味なのか? 僕の見るところ、プーチン大統領が戦争を本気でやめるつもりがないんだから、「少しトランプの顔を立てて、形式的な停戦のフリをする」程度だろう。

(4月6日段階のウクライナ戦争地図) 

 当初ロシアは数日でウクライナ全土を掌握し、支持率の低下が著しかったゼレンスキー政権はすぐに崩壊するだろうという予測があった。しかし、そういう事態は起こらず、ロシアがウクライナ全土を支配する可能性はほぼ無くなった。一方でロシアが一方的に併合を宣言した4州をウクライナが実力で奪還する可能性も現時点では考えられない。ウクライナは3年間の戦いの犠牲が大きく、戦争継続に必要な国力や国民世論の支えが限界に近づいている。ウクライナにとっても早期の「停戦」が重要だが、その条件を他の国が押しつける権利はない。逆にすぐに停戦に応じるようにロシアに圧力を掛ける必要があるはずだ。

 しかし、国連安保理では米国が提出した「中立的決議案」にロシア、中国が賛成し、2月24日に初めて決議が成立した。英仏、デンマーク、ギリシャ、スロベニアは棄権し、アルジェリア、ガイアナ、パキスタン、パナマ、韓国、シエラレオネ、ソマリアが賛成である。ロシア非難の文言を入れてロシアが反対すれば、(ロシアの拒否権で)成立しない。成立に向け「妥協」も必要だという考えもあるだろうが、公然と「米中ロが同一歩調」を取るのがトランプ政権下のアメリカなのである。

 当然ロシアは譲歩する気はないだろう。ロシア系住民が多く住むクリミアやドンバス地方を「併合」してしまったので、今後「公正な選挙」を行う限り、「親ロシア大統領」は当選出来ない。だから「親ロ派しか立候補できない不公正な大統領選」、つまりロシアやベラルーシやイランのような大統領選を実施したいわけだが、そんなことを近隣諸国が許容するはずがない。(EUは選挙監視団を派遣するだろう。)だから「本格的和平」は当分あり得ないのである。(「当分」は21世紀前半ぐらいの長期か?)

 だけど、双方の事情を組んだ「一時的な停戦」を実現することは可能だろう。そのための条件はアメリカがウクライナを支援して、ロシアが譲歩せざるを得なくなることだが、トランプの思考法はむしろ「強い側に同調して、弱い者に譲歩を迫れば、平和が実現する」というものだ。なかなか停戦合意も難しい段階にあるような気がする。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 3期目をめざす(?)トランプ... | トップ | 「大インフレ」がやってくる... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

 〃  (国際問題)」カテゴリの最新記事