さて、いよいよ「トランプ関税」を考えることにする。例の「相互関税」というものが、本日午後(日本時間4月9日午後1時)に発動されたようである。僕は経済が苦手である。免許上では高等学校の「政治経済」という科目を教えられるんだけど、担当したことは一度もない。「現代社会」という科目にある常識みたいなレベルしか自分でも理解していない。だけど「日本はデフレか」みたいなレベルでも経済学者の見解が異なっていたわけで、「経済」がどうなるかなんて普通は予想出来ないものだと思う。
しかし今回のトランプ関税は、何という「愚策」なのだろうと思う。ここまで来れば、あらかじめ失敗することが運命づけられていると書いてしまっても大きく間違えないと思っている。いや「成功」するかもしれないと言う人もいるかもしれないが、本質的には成功しないはずである。ただトランプ政権が「成功」と主張することで「失敗」という声が打ち消される可能性はある。「今は我慢の時」などと支持者がいつまでも言い張る中で、経済統計も偽装されたりすれば「成功」だと思う人がいるかもしれない。
トランプが「関税」と言い続けていることで、「アメリカも弱くなったんだなあ」と思う人も多いだろう。トランプが尊経しているらしい19世紀末の大統領マッキンリーは、議員時代に「マッキンリー関税」で知られたという。それはアメリカが強かったからではなく、当時世界最強の大英帝国に対し、弱いアメリカの産業基盤を守るためだったろう。恐らくマッキンリーも「アメリカの裏庭」にある中米の「バナナ共和国」の側が自国を守るために関税を掛けることは容認しなかったのではないか。
今回の「相互関税」の率がバラバラで、その式も間違っているという指摘もある。取って付けたような後追いのリクツを作っているようだ。その前提にあるのは「貿易赤字は悪」という思い込みである。これがもう間違っている。貿易赤字は(先進経済国では)決して悪ではない。もちろん「モノカルチャー」(単一栽培)経済に頼る国は、サトウキビ、コーヒー、カカオなどの輸出作物の国際価格が暴落したら、国家経済が破綻してしまうことがある。その場合だったら「貿易赤字は悪」に間違いない。
アメリカの貿易収支が大幅赤字であることは事実である(上記グラフ)。バイデン大統領時代に大きく膨らんでいるが、これはバイデン政権の経済政策が失敗したことを意味しない。むしろバイデン政権の経済運営が好調で、コロナ明けという事情もあいまって、アメリカの購買意欲(需要)が過大になったということだろう。アメリカの場合、経済が好調で多くの人が自動車を買い換えようなどと思ったら、アメリカの自動車会社もメキシコなどで作っているんだから、貿易赤字が拡大する。食糧もエネルギーも自給可能なアメリカ経済では、消費者向け商品は(もちろん国内でも作っているが)、外国から輸入すればいいやとなる。
アメリカの自動車産業は重要だけど、アメリカだって自動車関係で暮らしている人は全国民の中では少数だろう。だから全国民的経済として考えれば、安くて性能も良い外国生産車を買う方が合理的である。もちろん超高級車なんかは、アメリカで製造してもペイするんだろうから、販売地点に近いアメリカ国内で生産する。一方大衆車レベルでは、どこで製造されたかにこだわる必要はない。これは日本の電機製品などでも起こったことで、経済合理性の観点ではその方がアメリカの消費者には嬉しいはずだ。
もちろん「経済合理性」や「市場経済」が全能だということはない。トランプは「日本はコメに700%の関税を掛けている」とデマを飛ばしているが、(マスコミ報道では実質は200%程度らしい、普通の関税の掛け方ではないのではっきり数字では表せない)、日本人にはコメは特別な作物なんだから許される。アメリカ人はコメを毎日食べもしないのに、あれこれ言われるいわれはない。だから、トランプ大統領が「アメリカ人にとって自動車は特別」と考えて、例えば自動車だけに関税を掛けるというのなら、それもおかしいけれど、関税を交渉に利用するという意味では理解することは出来る。
しかし、今回は貿易内容を区別せずに、単に赤字額だけを見て(ということらしいが)国ごとに一律に関税を掛けるのである。しかも無人島にまで掛けているらしいし、世界最貧国の一つレソト(南アフリカ内にある王国)に50%の関税という理解不能なことをしている。よく見れば、EU=20%、英国=10%とか、ベトナム=48%、インドネシア=32%、マレーシア=24%、シンガポール=10%など近隣国でもバラバラだ。こうなると、東南アジア各国は一度シンガポールに輸出し、シンガポールの会社がアメリカに輸出するという「ペーパー会社」による「迂回戦術」を取るのが確実だろう。
今回に限らず、関税というものは「輸入会社」→「消費者」が負担するものなので、アメリカの物価を押し上げるのは確実である。そもそもアメリカの自動車会社がメキシコなどに生産拠点を移したのは、アメリカで生産すると人件費などで商品が高くなるからである。(日本でも円高時代に多くの会社が中国や東南アジア各国に工場を移転して日本は「空洞化」したと言われたのも同様。)その事情は変わらないのに、輸入品に高関税を掛ける。これは要するに、輸入品100万円、国産品120万だったら、輸入品に関税を掛け125万円にしてしまえば、国産品が価格で勝負出来るという発想である。つまり「高い方に合わせる」わけである。
これが経済合理性に反した政策であるのは間違いない。その国にとって譲れない伝統産品なら別だが、あらゆる商品、あらゆる国に追加関税を掛けるんだから、これは「人為的なインフレ政策」である。バイデン時代の物価高に嫌気がさしたトランプ支持層の中には、トランプ離れをする層も出ては来るだろう。だが多くのトランプ支持者は「信仰」になっているので、景気が悪化して輸入が少なくなったのを「貿易赤字が減った」などというはずの大統領を支持し続けるんじゃないかと思う。
ところで、日本車をアメリカに輸出するといっても、もちろんアメリカの消費者はドルで買っている。(自動車は高いから、ドル札で払うんじゃなく、もちろん分割してクレジットカードなどで払うんだろうが。)一方で、日本人社員には円で給料を支払うわけだから、溜まったドルはどこかで円に両替するわけである。しかし、全部を両替してしまうのではなく、ドルはアメリカ国内に溜まり続けている。日本政府も「外貨準備」のほとんどは、世界で安全資産とされてきた米国債で保有している。
これが「貿易赤字は悪くない」もう一つの理由である。中国も日本もアメリカに輸出して儲けているわけだが、その儲けはアメリカ国債となってアメリカ経済を支えている。今後経済悪化によっては、あるいは米中対立の行く末によっては、米国債が大量に売られて暴落するという悪夢の展開も考えられる。これこそトランプ関税が世界恐慌の引き金を引くことにつながる事態である。まさか中国も一挙に米国債を売ったりはしないと思うが、トランプは果たしてその恐ろしさを理解しているのだろうか?
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