新聞の書評で『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』という本が紹介されていた。フランスの経済学者トマ・フィリポンの著書で、みすず書房から川添節子訳で刊行された。しかし4950円もする経済学の大著を僕が読み通すのは大変だろう。お金をムダにしないよう買う気はないんだけど、紹介された論旨が非常に重要だと思うので、書評をもとに書いておきたい。
著者はニューヨーク大で教えるフランス人経済学者で、渡米する前はアメリカはベンチャー企業が輩出する「自由競争」の社会だと思っていた。僕も何となくアメリカは「競争が激しすぎる」ことの方が問題と思っていた。しかし、アメリカではインターネットの通信費がヨーロッパと比べて2倍近いのはなぜかと疑問を持つようになったという。原著は2019年に出たそうで、それまで著者は10年余掛けてアメリカ企業のぼうだいな事例と文献を調べた結果、衝撃的な結論に達したというのである。
アメリカでは確かに活発な技術革新と新企業が登場するが、いったん国内市場で確固たる地位を占めると、今度は権力の介入を求めて活発なロビー活動を行って「自由市場」が疎外されてしまうというのである。そして企業合併が簡単になって市場の寡占化が進んでいるという。そう言えば、有名なIT企業は似たような企業をどんどん買収して超巨大化していった。(InstagramをFacebookが買収した例が典型的。)そのような「寡占」が進んだアメリカ社会では、他国と比べて物価が高くなり、企業の利益は増えるものの、投資は減り生産性も下がるという。一見すると意外だが、「競争なきアメリカ」という社会が誕生したのである。
この前金井美恵子の「目白日録」を読んでいて、中公文庫で再刊されていない「3・11」後の文章まで見つけ出して読んだ。その時に思い出したのだが、日本で「大震災」が起こった2011年は、世界的には「アラブ革命」の年だった。結局、エジプトやシリアがどうなってしまったかを思うと、この10数年には苦い思いが付きまとう。ただその時代には「Twitter」や「Facebook」によって「自由を求める民衆」が連帯出来るようになったと言われていた。SNSなくしてアラブ革命は起こらなかった。IT技術こそ「民主主義」の基盤だと言われた時代が、ついこの前にあったことを多くの人はもう忘れているんじゃないだろうか。
今じゃそんな「夢」はどこかへ行ってしまった。アメリカのIT長者たちはトランプの要求に屈していき、大統領就任式にはそろって参列したのである。さらにテスラ(電気自動車)のトップ、イーロン・マスクは最近まで「政権内」で活動して、多くの政府職員を解雇したと言われる。僕にはトマ・フィリポン氏の論旨を評価することは出来ないけれど、アメリカが大企業の寡占による「競争なき」社会になりつつあるという指摘はなんとなく腑に落ちる気がする。
この前岡山に出かけたとき、テレビを見ていたら岡山の地域ニュースをやっていた。岡山の中小企業が「トランプ関税」にどう対応するかという特集だったのだが、その企業では大変困りながらも、「10%」でとどまるとしたら自社の生産性向上で何とか吸収できないか検討を始めているということだった。その結果どうなるかはわからないけれど、こうして新しい工夫でトランプ関税に立ち向かう企業は、仮にアメリカ市場を失ったとしても世界的には大きな成功を収めるのではないか。大統領の「関税」に頼ってしまったアメリカ企業は、アメリカ以外の世界市場では全く競争にならないはずである。
ロシアでは「ソ連解体」以後に急速に発展した「新興財閥」(オリガルヒ)がプーチン政権を支えていると言われる。同じようにトランプ政権もイーロン・マスクに代表されるアメリカの「オリガルヒ」たちが支えているという気もする。そう見ると、トランプ政権がロシア寄りっぽい立ち位置を見せるのも(最近はロシアを非難することもあるが)、政権基盤の共通性がもたらすものという見方も可能なのかもしれない。まあ、単なる思いつきみたいな感想だけど。
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