尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

アラン・ドロンとジーナ・ローランズー2024年8月の訃報①

2024年09月06日 22時30分02秒 | 追悼
 2024年8月の訃報特集。8月には重要な訃報が相次いだが、国内のものが多かった。外国人で日本にも知名度が高い人はアラン・ドロンだけだろう。そこで今回は外国の訃報を最初に書き、日本人の訃報は2回に分けて書きたい。フランスの映画俳優アラン・ドロン(Alain Delon, 1935.11.8~2024.8.18)が8月18日に亡くなった。88歳。近年体調不良が伝えられていたので意外感はないが、訃報が大きかったのに驚いた。今でも「二枚目俳優」として知名度が高いのである。(「二枚目」は死語かもしれないが。)
 (アラン・ドロン若い頃)
 両親が離婚したため家庭的に恵まれず、若くして軍隊に入りインドシナ戦争に従軍した。休戦協定でフランスへ帰り、カンヌ映画祭でスカウトされた。美男子ぶりに自信を持って、カンヌを訪れたのである。そして「世紀の美男子」として世界で人気を得た。日本では1960年公開の『太陽がいっぱい』(ルネ・クレマン監督)で人気がブレイクし、今も代表作と呼ばれる。パトリシア・ハイスミスの原作にある毒や暗さを表現できる俳優だった。しかし、生い立ちも影響したかもしれない「影」が最後まで付きまとった。むしろ初期の代表作はヴィスコンティに愛された『若者のすべて』や『山猫』じゃないだろうか。さすがに巨匠の傑作である。
(『山猫』)
 人気的にも作品的にもピークは60年代後半から70年代前半だろう。数多くの映画に出ているが、ほとんどが犯罪者役。それは日本の高倉健などとも共通する。『冒険者たち』(ロベール・アンリコ監督)のようにロマンティックな映画もあるが、一番ハマっているのはジャン=ピエール・メルヴィル監督作品だと思う。刑事役の『リスボン特急』もあるが、『サムライ』『仁義』では孤独な犯罪者を見事に演じている。「サムライ」は原題通りで、「一匹狼の殺し屋」をやっている。もともと侍の原義はボディガードだが、いつのまにか外国では一匹狼的なイメージになったわけである。
(『サムライ』)
 アラン・ドロンは最初アメリカ映画にスカウトされた。まずフランス映画界で成功したが、ハリウッド進出を考えていた。60年代半ばにはハリウッドに移住しアメリカ映画に出ていた。また仏伊合作『さらば友よ』(チャールズ・ブロンソンと共演)、『ボルサリーノ』(ジャン=ポール・ベルモンドと共演)などがヒットした。そしてアメリカの西部劇『レッド・サン』でチャールズ・ブロンソン、三船敏郎を共演した。しかし米映画では余り成功せず、その後はフランスを中心に中級娯楽作が多くなった。1985年に『真夜中のミラージュ』でセザール賞男優賞を受けたが、どんな映画か覚えていない。作品的には初期以外は恵まれなかった。
(『レッド・サン』)
 私生活では僕の知った頃(70年代初期)には女優のミレーユ・ダルクと「同棲」していて、その前に女優ナタリー・ドロンと結婚していたが、さらにその前には女優ロミー・シュナイダーと婚約していた。これらの情報は日本の映画雑誌にも細かく紹介されていた。日本でも非常に人気があったが、殺人事件への関与疑惑などスキャンダルも絶えなかった。そのような点も含めて「暗い魅力」があったと言うべきか。1975年の『アラン・ドロンのゾロ』という映画があったが、とても楽しい映画で、こういう映画こそ本領発揮というべきだろう。テレビでは野沢那智が吹き替えをやっていたのも思い出。

 アメリカの女優ジーナ・ローランズ(Gena Rowlands)が8月14日に死去、94歳。アメリカ映画はカリフォルニア州のロサンゼルス郊外ハリウッドが中心となってきたが、それ以外でも映画は作られてきた。その代表が「ニューヨーク派」で、インディペンデンスで作家性の強い映画が作られてきた。1959年に『アメリカの影』を作ったジョン・カサヴェテスが代表。そのジョンと演劇学校時代に知り合い、1954年に結婚したのがジーナ・ローランズだった。二人の間に生まれたニック・カサヴェテスゾエ・カサヴェテスは映画監督になり、ニックの監督した『きみに読む物語』にはジーナ・ローランズも出演した。
(ジーナ・ローランズ)(ジョン・カサヴェテスと)
 テレビにもよく出ていたらしいが、代表作は夫であるジョン・カサヴェテス作品になる。特に『こわれゆく女』(1974)は情緒不安定な妻役でアカデミー賞主演女優賞ノミネート。さらに『オープニング・ナイト』(1877、ベルリン映画祭女優賞)、『グロリア』(1980、アカデミー賞主演女優賞ノミネート)、『ラヴ・ストリームズ』(1984)などで強烈な女性像を演じ続けた。アカデミー賞はどうしても大会社中心になるが、ジョン・カサヴェテス作品でノミネートされたのはそれほど無視できない迫力だったのである。日本でも80年代以後「ミニ・シアター」ブームで公開され、最近も上映されている。
(『グロリア』)
 その中で『グロリア』はジョン・カサヴェテスとしてもジーナ・ローランズとしても異色の作品。ギャングの殺人を目撃したことから追われている少年をたまたま匿って逃げることになる女性をものすごい迫力で描いている。この種の物語の原型となった。知名度はアラン・ドロンに及ばないだろうが、忘れがたい女優である。

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