ガス・ヴァン・サント監督の新作「ドント・ウォーリー」が公開された。アメリカではまだ公開されてないらしく、日本の方が先になった。過激な風刺で知られた漫画家ジョン・キャラハン(1951~2010)の自伝の映画化。すごく大きな問題をいくつも含んだ物語だが、実によく出来た感動作。キャラハンはアルコール依存症で、自動車事故により一生車椅子の生活になる。そんな彼がどう生きたか。アメリカ西海岸のオレゴン州ポートランドに住み、電動車椅子で街を駆け回る様子が素晴らしい。同地に長く住んで生前のキャラハンを何度も見たというガス・ヴァン・サント監督が見事に映像化している。
もともとロビン・ウィリアムズが主役を熱望して映画化権を獲得していたという。監督は当初からロビン・ウィリアムズが主演した「グッド・ウィル・ハンティング」のガス・ヴァン・サントに依頼されていた。しかし2014年にロビンが亡くなり、脚本も書き換えてホアキン・フェニックスが主演した。素晴らしい名演で、けっしていい人じゃなかったキャラハンを等身大に演じて、すごく深いものを感じさせる。
まだ何者でもなかった21歳のとき、すでに彼はアルコール依存症だった。しかし夜も車で遊び回り、友人とバカ騒ぎ。デクスター(「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラック好演)が運転する車が事故を起こして、彼が奇跡的に無傷なのにキャラハンは脊椎損傷で一生歩けなくなる。元をたどれば、母親に捨てられ、もらわれた家でも居場所がない。子ども時代から酒を覚え、もう手放せなくなっていた。障害者となったキャラハンは、苛立ちと怒りの日々を送っている。
ヘルパーとケースワーカーに頼らざるを得ないキャラハン。思ったように酒も飲めない毎日にイライラしていたが、一念発起して断酒を決意。地区のAA(アルコホーリクス・アノニマス)に参加して、多くの人に出会う。特にリーダーのドニーを演じたジョナ・ヒルが名演。神をチャッキーと呼びながら皆を見守るが、実は一番大きな悩みを抱えている。「老子」を読むように勧めるドニーが出てきて、この映画は格段に深みを増してゆく。そしてキャラハンは風刺漫画を書くようになり、それが次第に売れてゆく。
(実際のキャラハンが書いた漫画)
そんな彼に課されたミッションが「ゆるすこと」だ。人生で出会った多くの人々に会いに生き、ゆるしを請うのである。事故後に一回も会わずにいたデクスターにもキャラハンから出かけていった。彼も事故後は苦しい思いを抱いて生きていた。しかし、多くの他人をゆるすことができても、恵まれない人生に苛立って酒に逃げていた自分自身を自分でゆるせるか。これが最後のミッションとも言える。このあたりのホアキン・フェニックスの演技が素晴らしい。
原題の「Don't Worry, He Won't Get Far on Foot」は、「心配するな、遠くには行けないから」。荒野で車椅子が転がった様子を見て、追いかけたカウボーイが言う。こういう自虐ネタの漫画を書くことが彼を支えている。映画は時間を自在に行き来して、ジョン・キャラハンという人物をあぶり出してゆく。「障害者」として、性の問題、福祉の問題など大きなテーマも出てくる。それらも重要だけど、「依存症」という問題に向き合うとき、いろんなことに躓きながら生きている人に示唆することが多い。人間はどういう風に変われて、また変われないかという大問題に真っ正面から向き合っている。
(ガス・ヴァン・サント監督)
ガス・ヴァン・サント監督(1952~)は、「ドラッグストア・カウボーイ」や「プライベート・アイダホ」などで注目された。アメリカでは珍しい作家性の強い監督だが、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」や「ミルク」などアカデミー賞で大きな評価を受けた映画も作った。また銃乱射事件を描く「エレファント」はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。最近の「永遠の僕たち」や「追憶の森」を見逃したので、なんだか久しぶり。編集にもクレジットされているが、確かな技量を実感できる。ポートランドの「空気感」も素晴らしい、またボーナス的に出てくるルーニー・マーラが相変わらず素晴らしい。
もともとロビン・ウィリアムズが主役を熱望して映画化権を獲得していたという。監督は当初からロビン・ウィリアムズが主演した「グッド・ウィル・ハンティング」のガス・ヴァン・サントに依頼されていた。しかし2014年にロビンが亡くなり、脚本も書き換えてホアキン・フェニックスが主演した。素晴らしい名演で、けっしていい人じゃなかったキャラハンを等身大に演じて、すごく深いものを感じさせる。
まだ何者でもなかった21歳のとき、すでに彼はアルコール依存症だった。しかし夜も車で遊び回り、友人とバカ騒ぎ。デクスター(「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラック好演)が運転する車が事故を起こして、彼が奇跡的に無傷なのにキャラハンは脊椎損傷で一生歩けなくなる。元をたどれば、母親に捨てられ、もらわれた家でも居場所がない。子ども時代から酒を覚え、もう手放せなくなっていた。障害者となったキャラハンは、苛立ちと怒りの日々を送っている。
ヘルパーとケースワーカーに頼らざるを得ないキャラハン。思ったように酒も飲めない毎日にイライラしていたが、一念発起して断酒を決意。地区のAA(アルコホーリクス・アノニマス)に参加して、多くの人に出会う。特にリーダーのドニーを演じたジョナ・ヒルが名演。神をチャッキーと呼びながら皆を見守るが、実は一番大きな悩みを抱えている。「老子」を読むように勧めるドニーが出てきて、この映画は格段に深みを増してゆく。そしてキャラハンは風刺漫画を書くようになり、それが次第に売れてゆく。
(実際のキャラハンが書いた漫画)
そんな彼に課されたミッションが「ゆるすこと」だ。人生で出会った多くの人々に会いに生き、ゆるしを請うのである。事故後に一回も会わずにいたデクスターにもキャラハンから出かけていった。彼も事故後は苦しい思いを抱いて生きていた。しかし、多くの他人をゆるすことができても、恵まれない人生に苛立って酒に逃げていた自分自身を自分でゆるせるか。これが最後のミッションとも言える。このあたりのホアキン・フェニックスの演技が素晴らしい。
原題の「Don't Worry, He Won't Get Far on Foot」は、「心配するな、遠くには行けないから」。荒野で車椅子が転がった様子を見て、追いかけたカウボーイが言う。こういう自虐ネタの漫画を書くことが彼を支えている。映画は時間を自在に行き来して、ジョン・キャラハンという人物をあぶり出してゆく。「障害者」として、性の問題、福祉の問題など大きなテーマも出てくる。それらも重要だけど、「依存症」という問題に向き合うとき、いろんなことに躓きながら生きている人に示唆することが多い。人間はどういう風に変われて、また変われないかという大問題に真っ正面から向き合っている。
(ガス・ヴァン・サント監督)
ガス・ヴァン・サント監督(1952~)は、「ドラッグストア・カウボーイ」や「プライベート・アイダホ」などで注目された。アメリカでは珍しい作家性の強い監督だが、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」や「ミルク」などアカデミー賞で大きな評価を受けた映画も作った。また銃乱射事件を描く「エレファント」はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。最近の「永遠の僕たち」や「追憶の森」を見逃したので、なんだか久しぶり。編集にもクレジットされているが、確かな技量を実感できる。ポートランドの「空気感」も素晴らしい、またボーナス的に出てくるルーニー・マーラが相変わらず素晴らしい。