ジョン・アーヴィング原作、ジョージ・ロイ・ヒル監督の「ガープの世界」(The World According to Garp)を30数年ぶりに再見。新文芸座のワーナー映画旧作特集で、「ビッグ・ウェンズデー」と一緒に見た。ジョン・ミリアスの「ビッグ・ウェンズデー」は、サーフィン映画の傑作である以上に失われゆく青春への挽歌だ。でも僕にはもう昔見た時ほどの感動は得られないなあと思った。一方、「ガープの世界」は今もまったく古びていないだけでなく、むしろ今の世界を予見したかのようだ。
この映画は1982年製作で、日本では翌1983年に公開されてキネ旬ベストテン2位になった。僕は同時代に見ているが、そこまでいいかなあと思った。というのも同じ年に「ソフィーの選択」や「ガンジー」があった。また何といっても「フィッツカラルド」「アギーレ・神の怒り」があったから、僕にとっては「ヘルツォークの年」だったわけである。それはアメリカでも同様で、先の2作に加え「E.T.」や「トッツィ-」もあったから、アカデミー賞には男女の助演賞がノミネートされただけだった。
冒頭にビートルズの「When I'm Sixty-Four」(64歳になっても)が流れる。それだけで、もう何だか時代を超越して昔に戻れる気がする。とにかく「語り」が滑らかで、スイスイ見てしまえる映画。とてもウェルメイドな作りに感心した。それ以上に驚いたのが、テーマがまったく古びていないこと。むしろ今の方が切実かもしれない。主人公ガープ(ロビン・ウィリアムズ)の母、ジェニー・フィールズ(グレン・クローズ)は夫はいらないが子どもが欲しいと望む。「看護婦」だったジェニーは、死に際の傷痍軍人と一方的にセックスしガープを身ごもり、シングルマザーになる。
人間はなかなか思うように生きられないけど、ある段階までその原因を作ったのは戦争や貧困だった。映画でも戦争で引き裂かれた悲劇、なんていうのがいっぱい描かれた。戦後何十年も経ち、「先進国」では戦争や貧困が(完全ではないけど)ある程度遠いものになっていく。じゃあ、前の時代より幸せかというと、以前は問題化されなかったようなテーマが切実なものになっていく。「セクシャリティ」の問題はその最大のものだろう。シングルマザーとその子どもの人生を通じて、性と生の悲喜劇をたっぷりと見せてくれるこのドラマは、今こそ思い出されるべきだ。
LGBTなんて言葉は、この映画の公開当時は知らなかった。というか、なかっただろう。「#Me Too」として「セクシャルハラスメント」が改めて問われる現在に、この映画は驚くべき先見性で迫ってくる。もう一つの大きな問題は、アメリカの銃社会である。これも今もなお、というより今こそまさに現在的な問題。しかし、そのようなセクシャリティや銃の問題以上に、「怒りは怒りを来す」という「スリー・ビルボード」が問う問題意識に再び直面してしまう。人間が怒りを制御できなくなる時に、自分に返ってくる大きな悲劇。今こそこのテーマに真剣に向き合う必要がある。
アメリカであまり高い評価にならなかったのは、有力作とぶつかった他に原作が面白すぎることもあるだろう。ベストセラーになったから、多くの人が読んだ。そういう場合によくあるが、映画にするとよく出来たダイジェストに見えてしまう。原作の持つ大きさ豊かさがカットされたように感じてしまう。僕も公開当時は、サンリオ文庫の原作を先に読んでたので、ちょっと物足りなかった。今回は大まかな流れは覚えていたが、細部は忘れていた。だからなのか、ものすごく面白く見られた。ロビン・ウィリアムズの悲劇的な最期を思うと感無量。
ジョン・アーヴィングの映画化には、作家本人がアカデミー賞脚色賞を受賞した「サイダーハウスルール」やトニー・リチャードソン監督による「ホテル・ニューハンプシャー」などがある。だが、「ガープの世界」が一番いいだろう。ディケンズに憧れる長大なリアリズム小説ばかりだから、なかなか読むのも大変。でも現代アメリカを知る意味でも、物語の面白さ豊かさという意味でも挑戦しがいのある作家だ。
この映画は1982年製作で、日本では翌1983年に公開されてキネ旬ベストテン2位になった。僕は同時代に見ているが、そこまでいいかなあと思った。というのも同じ年に「ソフィーの選択」や「ガンジー」があった。また何といっても「フィッツカラルド」「アギーレ・神の怒り」があったから、僕にとっては「ヘルツォークの年」だったわけである。それはアメリカでも同様で、先の2作に加え「E.T.」や「トッツィ-」もあったから、アカデミー賞には男女の助演賞がノミネートされただけだった。
冒頭にビートルズの「When I'm Sixty-Four」(64歳になっても)が流れる。それだけで、もう何だか時代を超越して昔に戻れる気がする。とにかく「語り」が滑らかで、スイスイ見てしまえる映画。とてもウェルメイドな作りに感心した。それ以上に驚いたのが、テーマがまったく古びていないこと。むしろ今の方が切実かもしれない。主人公ガープ(ロビン・ウィリアムズ)の母、ジェニー・フィールズ(グレン・クローズ)は夫はいらないが子どもが欲しいと望む。「看護婦」だったジェニーは、死に際の傷痍軍人と一方的にセックスしガープを身ごもり、シングルマザーになる。
人間はなかなか思うように生きられないけど、ある段階までその原因を作ったのは戦争や貧困だった。映画でも戦争で引き裂かれた悲劇、なんていうのがいっぱい描かれた。戦後何十年も経ち、「先進国」では戦争や貧困が(完全ではないけど)ある程度遠いものになっていく。じゃあ、前の時代より幸せかというと、以前は問題化されなかったようなテーマが切実なものになっていく。「セクシャリティ」の問題はその最大のものだろう。シングルマザーとその子どもの人生を通じて、性と生の悲喜劇をたっぷりと見せてくれるこのドラマは、今こそ思い出されるべきだ。
LGBTなんて言葉は、この映画の公開当時は知らなかった。というか、なかっただろう。「#Me Too」として「セクシャルハラスメント」が改めて問われる現在に、この映画は驚くべき先見性で迫ってくる。もう一つの大きな問題は、アメリカの銃社会である。これも今もなお、というより今こそまさに現在的な問題。しかし、そのようなセクシャリティや銃の問題以上に、「怒りは怒りを来す」という「スリー・ビルボード」が問う問題意識に再び直面してしまう。人間が怒りを制御できなくなる時に、自分に返ってくる大きな悲劇。今こそこのテーマに真剣に向き合う必要がある。
アメリカであまり高い評価にならなかったのは、有力作とぶつかった他に原作が面白すぎることもあるだろう。ベストセラーになったから、多くの人が読んだ。そういう場合によくあるが、映画にするとよく出来たダイジェストに見えてしまう。原作の持つ大きさ豊かさがカットされたように感じてしまう。僕も公開当時は、サンリオ文庫の原作を先に読んでたので、ちょっと物足りなかった。今回は大まかな流れは覚えていたが、細部は忘れていた。だからなのか、ものすごく面白く見られた。ロビン・ウィリアムズの悲劇的な最期を思うと感無量。
ジョン・アーヴィングの映画化には、作家本人がアカデミー賞脚色賞を受賞した「サイダーハウスルール」やトニー・リチャードソン監督による「ホテル・ニューハンプシャー」などがある。だが、「ガープの世界」が一番いいだろう。ディケンズに憧れる長大なリアリズム小説ばかりだから、なかなか読むのも大変。でも現代アメリカを知る意味でも、物語の面白さ豊かさという意味でも挑戦しがいのある作家だ。