尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

泰明小の「アルマーニ標準服」問題

2018年02月12日 21時19分57秒 |  〃 (教育問題一般)
 東京都中央区立泰明(たいめい)小学校で、来年度から新しい「標準服」に変えることになり、それが「アルマーニ」だというので話題になった。現在は1万7千~9千円ぐらいだが、今度は8万円もする、高すぎるんじゃないかと国会でも取り上げられた。林芳正文科相も、決める過程でもう少し保護者と話をしていればと答弁した。(上衣そのものは2万5千円程度だが、半ズボンに夏用、冬用があり、シャツ、セーター、ベスト、帽子など全部そろえると高くなる。)この問題は東京の教育のあり方をよく表しているように思う。少し整理して、考えてみたい。

 山手線有楽町駅の近くに、昔「日本劇場」があった。今の「有楽町マリオン」だが、そこは千代田区である。(上階に「日劇」の名を冠した映画館があったが、2月上旬で閉館になり「日劇」の名前がなくなった。)道を渡った数寄屋橋公園になると中央区銀座で、公園の裏に泰明小学校がある。1878年(明治11年)創立という歴史を誇り、卒業生の島崎藤村、北村透谷の碑が校門前に立っている。(他にも近衛文麿など有名人が多数在籍した。)現在の校舎は1929年に建てられた震災後の「復興小学校」で東京都の歴史的建造物、経産省の近代化遺産に選定されている。

 東京では「学校選択制」を小学校から実施しているところが多い。中央区でも全16小学校の中で4校に関しては、「特認校制度」という選択を認めている。泰明小の他、城東、常盤、阪本の4小学校で、地名を見ると銀座、兜町、八重洲などにある。居住者が少ない地区にある学校である。中央区民であれば、保護者が説明会に出席し教育方針に賛同したら希望を出せる。人気があって、抽選になるという。中央区は地価が高いから、もともと保護者には一定の経済水準があると考えられる。当然のこととして、卒業後は有名私立中を受験する児童が多い。そういう学校である。
 (右から男児夏服、男児冬服、女児冬服)
 どこに「問題」があるのだろうか。「標準服」が高すぎるのか。それとも公立小に有名ブランドだからか。あるいは、学校側の説明が納得いかないということか。(新入生向けの保護者説明会では金額が出されなかったという。)そういうことに話題が行くことで、そもそも「公立小学校に標準服があってもいいのか」という根本的問題が問われない。そもそも「標準服」なんだから、制服と違って着用義務はない。だけど、親が買わないという選択肢はないだろう。「お前のうちはビンボーなのか」という記号をまとわせて子どもを登校させるわけにはいかない。

 校長が、あるいは学校側が説明なしで勝手に決めたというなら、それは東京の教育では当然とされるだろう。標準服(あるいは制服)をどうするかは、「学校経営」の問題である。学校経営は校長の専権事項だから、教職員や保護者の意見を聞く必要はない。むしろ聞いてはならない。校長のあり方として、そう教えられているだろうから、それを実践したということだろう。他のブランド(バーバリー、エルメス、シャネルなど)にも校長が交渉したというが、アルマーニしか応じてくれなかったという。しかし、それにしても他も有名ブランドなんだから、要するに「高い標準服にする」のは当初から目論見だろう。それは「保護者を選別する」という目的なんだろうと思う。
 
 嫌なら他の学校へ行けばよいということだ。それは私立学校には言えても、公立学校では本来あり得ない発想だ。しかし、泰明小は普通の小学校ではない。「地区の子どもたちを地区の中学校に送る」のが「普通の小学校」だが、恐らく泰明小は「高い進路実績」を求める保護者の要望に応えるのが事実上の目標だと思う。だから、あえてこのような標準服を決める。高いという保護者には配慮もするなどと言ってるようだけど、そもそも着用の義務はないんだから、そのように指導をすればいいだけだ。だが校内の「運用」では「制服」だという意識なんだと思われる。

 そもそも公立小学生に「標準服」は必要なんだろうか。小学生は通常は6歳から12歳までである。どんどん大きくなるし、まだ自我のめざめ以前である。ブランド物の服を着る意味も判ってないだろう。中央区の小学校は16校中14校で標準服があるというが、全国的には「私服」が圧倒的だろう。それなのに「標準服」を制定する。服装には男女差がある。幼いころから、男女差を刷り込んでいく。高額な服を一斉に着用することで、エリート意識形成をも刷り込む。第2次性徴以前とは言え、世の中には「男の服を着る人」「女の服を着る人」の2種類しかいないと教え込んでいく。

 文科省は「自ら学ぶ」生徒を育てると言う。東京都は競争を導入し学校の個性化を進めるという。教育行政がどこまで本気で言ってるのか判らないが、「学校の個性化」を進めることにより、現場では校長の専断によって「個性のない子ども作り」を競い合うのである。それが日本社会の要望なんだから、致し方ない。校長だって数値化された学校目標実現に向けた「成績評価」にさらされている。現場教員を評価する管理職もまた、より上からの厳しい評価を気にしなければならない。そういう教育風土の中で起こった「椿事」が今回のアルマーニ騒動だ。

 ところでアルマーニ以外のブランドが断ったのは何故だろう。泰明小は小規模校で一学年が50名程度だという。それが男女別に分かれる上、細かい配慮を求められる。どんどん大きくなると、買い替える前にリニューアルにも応えないといけないだろう。だからと言ってこれ以上高額にはできない。とてもペイするとは思えない。しかし、「波及効果」があると見込むんだと思う。子どもがアルマーニ着てるのに、親がユニクロで授業参観に行けるか? やっぱりバーバリーじゃなくて、アルマーニを買ってしまうんじゃなかろうか。それは教職員も同じで、そうそうラフな服装で勤務も出来なくなるんじゃないか。子どもたちも何となく、デザインに慣れてしまえば、大人になって買ってくれるかも。それ以上に他の私立学校などに、大いなる宣伝価値があるだろう。そのような「波及効果」を見込んで、あえて引き受けたのではないかと思う。
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