尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

神武天皇陵とは何か①-「皇太子参拝」と退位問題

2016年12月18日 22時32分01秒 |  〃 (歴史・地理)
 2016年の大きなニュースで、書いてない問題がいくつかある。「天皇退位問題」もその一つ。書いてなかったのは、書き始めると大変な割には、まああまり自分に関心がないからである。今年の重大ニュースを選ぶときに、熊本地震や障害者施設襲撃事件、参院選の結果なんかより、退位表明が上にくるというのもおかしいんじゃないか。(社会部長選出ニュースはそうなっている。)

 7月16日午後7時直前に、NHKがニュース速報で「生前退位」を報道し、直後の7時の定例ニュースで、さらにくわしく報道した。僕はたまたまニュース速報から見ていた。確かにちょっと驚いたんだけど、「日本史の多くの時期の常道」に戻るだけののことだと思った。その後の報道によれば、天皇自身はかなり前からいずれ退位を考えていたという。一方、安倍内閣はこの問題に熱心ではなく、中には深刻な対立があるという憶測もあるようだけど、僕はあまり関心はない。(9月に宮内庁長官が退任し、それは70歳の年齢を理由としているものだが、次長が昇格した後の後任次長に内閣危機管理監(元警視総監)が就任した。その人事を「官邸が監視役を送り込んだ」と見る向きもあるようだ。)

 その後「有識者会議」が設けられ、「有識者」(不思議な言葉で、特に天皇制や憲法を研究してきたわけではない人まで呼ばれている)のヒアリングが行われた。3回目に来た八木秀次氏なんかは、「退位の容認は天皇制度を決定的に毀損する懸念があり反対だ」と激越な反対論を述べている。この人は安倍ブレーンで知られているから、なるほど安倍首相は手を付けたくない課題だったのか。この八木氏は、日本教育再生機構理事長であり、育鵬社の中学公民教科書を作っている人である。こういう国民世論とかけ離れた人が関わっている教科書を子どもたちに使わせているのである。

 ところで、その後僕が注目したのは、夏に皇太子一家が神武天皇陵を参拝したという出来事である。その日時を調べてみると、宮内庁のホームページの「皇室のご活動」に「皇太子同妃両殿下のご日程」という項目がある。そこに、「平成28年7月21日(木) ~ 平成28年7月22日(金) 奈良県及び京都府行啓(神武天皇山陵ご参拝,引き続き京都御所ご視察)」とあり、 「皇太子同妃両殿下並びに愛子内親王殿下 ご参拝(神武天皇山陵(橿原市))」と出ている。
(「神武天皇陵」を参拝する皇太子一家)
 皇太子の徳仁(なるひと)は学習院で歴史を学び、日本中世史の研究を行った。大学院前期課程を終了している。学習院では、日本近世史の児玉幸多氏を初め、きちんとした実証史学を学んでいるんだろうから、当然神武天皇は神話上の架空の存在だと判っているはずである。それなのに、なぜわざわざ夏休みに家族で参拝に訪れるんだろうか。僕はそのことに疑問があった。

 ところで、「生前退位」と当初は報道されたが、明治以後は天皇の終身在位が決められていたから、こういう言い方をするのも判る。でも、「退位」は「生前」に決まってるから、繰り返しになる。それに「退位」して自分で終わりではなくて、当然皇太子が後継となると想定しているわけだから、それは退位というより「譲位」と呼ぶべきだと思う。(だんだんそうなって来ている。)

 天皇が皇太子に譲位すると、祖父や父のような生物学ではなくて、歴史学という人文科学を学んだ天皇が誕生する。果たして、次代の天皇は宮中の祭祀を父祖のように大切に扱うのだろうか。僕が思うに、右派、天皇絶対主義者にはそういう心配があるんじゃないだろうか。そして、父の退位意向の表明を受けて、皇太子は右派に向かって「心配はない」というメッセージを送らざるを得なかったのではないか。今後とも、歴史は歴史として、天皇制の神話的祭祀のシステムは受け継いでいくという表明ではなかったか。そんな気がしたわけである。

 さらに合わせて、皇太子妃や内親王につきまとう健康状態への懸念、それが退位問題の障害にならないように、一家で参拝ということになったのかもしれない。中学3年になった内親王も、先のホームページで見ると、昨年と比べてかなり出掛けている。8月10~11日には、上高地で開かれた第1回山の日記念式典にも一家で出席している。(宿泊は松本市。)そういうことも、次代の天皇一家の「自覚」からかもしれない。しかし、その「頑張り」が秋に「反動」となったということなのか。それはともかく、そもそも「神武天皇陵」とは何なのだろうか
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