前に紹介した台湾の漫画家、高妍(ガオ・イェン)の『隙間』(すきま)の第4巻が6月12日付で刊行された。これで完結となるが、最後は「沖縄戦」をめぐる話になっている。西田昌司参議院議員の「ひめゆり発言」があった「戦後80年」の年に是非読むべき本だ。もちろん、林博史『沖縄戦』(集英社新書)を読んでもいいわけだが、多くの人には漫画の方が読みやすいだろう。(なお、前に紹介した記事は、2025.4.25付の『台湾の漫画家・高妍『隙間』ー台湾と沖縄「隙間」の歴史をつなぐ』。)
『隙間』という長編漫画は、台湾で育った若い女性、楊洋(ヤン・ヤン)が沖縄の県立芸術大学に短期留学した時の出来事を基にしている。楊洋は両親がなく祖母に育てられたが、祖母も亡くなった。台湾の民主化運動に学び自ら社会運動に参加するが、彼女の「目覚め」をもたらした男性リーダーへの片思いにも悩んでいる。そんな楊洋は留学時期が終わろうとしているのに、沖縄の歴史には詳しくないことを自覚する。そこで沖縄で親しくなった友だちと一緒に、沖縄戦の歴史に関わる資料館などを回るのである。
今までの3巻では台湾の民主化運動の歴史、特に同性婚が認められるまでの経緯など日本ではあまり知られていないことを学ぶことが出来た。今回の第4巻は話変わって、沖縄戦を台湾の若い女性が知っていく過程を描いている。まあ、日本人からすると話自体は知っているというか、そこまで詳しくないかもしれないが、一応どこかで聞いたような話だろう。つまり、沖縄戦で多くの民間人が犠牲となったこと、その際「日本軍」の方が恐ろしいぐらいだったなどという歴史的事実である。
台湾でも米軍による大空襲があった。(1945年5月31日の台北大空襲では、日本人を中心に3000人が死んだとされる。)しかし、この本によれば戦後の国民党政権はそのことをほとんど語り継がず、知らない人が多いらしい。米軍はマリアナ諸島、硫黄島を制圧した後、沖縄本島を攻撃したわけだが、米軍がどういう戦略で来るかは判らないから台湾も緊迫していたわけである。そこら辺の歴史を台湾の人は知らない。沖縄と台湾、地理的には近いのに、戦後の歩みはお互いの理解を妨げてきた。
特に宜野湾市の「佐喜眞美術館」に丸木位里、丸木俊夫妻の『沖縄戦の図』を見に行くところは圧巻。僕も埼玉県東松山市の丸木美術館には何度か(時には生徒を連れて)訪れたことがあるが、夫妻のことはちょっと忘れていたなと思った。ここで著者が言っているのは、台湾の人は自分たちが勝ち取ってきた民主主義、人権の歩みを守りたいと思っている。沖縄の人は戦争で多くの住民が亡くなるようなことが二度とないよう平和が続くようにと思っている。この二つが歴史の中で両立する道はどこにあるんだろうか。著者と同じく、僕も自問するのだがなかなかうまい方向性が見つからない。
実は著者高妍さんは6月22日に神保町の東京堂書店でサイン会を行ったはず。僕も行ってみたい気もしたけれど、旅行から戻ってきた翌日で、都議選に行くだけで休んでいたいなと思って予約をしなかった。もったいなかったかもしれない。漫画なんだから絵が大切だけど、テーマが深いためについ内容だけの紹介になったかも。内容はハードだが、台湾や沖縄の南国ムードの中で展開される美しい絵が魅力的。特に若い女性たちのネットワークとヴァイタリティが素晴らしい。
日本では「保守派」が「反中」意識から「台湾有事は日本有事」などと勇ましいことを言うことがあるが、そういう人たちは日本では同性婚の強硬な反対派である。そこにある「ねじれ」をどう理解すれば良いのだろうか。『隙間』という漫画は、台湾の若い人権活動家の歩みを紹介し、沖縄との架け橋を探し求める。是非多くの人に読んでみて欲しい「社会派少女漫画」。
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