実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

智恵  実戦教師塾通信二百九十八号

2013-07-15 11:58:23 | 福島からの報告
 引き裂かれる思い

     ~誤解と怒り~


 1 楢葉町の思い


 失礼になるかも知れないという思いはあったが、きっと私たちの方に知らないことがある方がよっぽど失礼なのだ。率直(そっちょく)なところを聞いておきたいと、私は第一仮設のあとに、第九仮設を訪れた。楢葉町の牧場主さんは、日焼けした顔をほころばせて私を集会所の中に招いた。

①乳牛
 はじめ私は、県畜産農協が解散するという『福島民友』(6,20付)の記事が気になっていたから、話をそこから始めた。聞けばこの話は「和牛」つまり肉牛のことだった。乳牛を育てていた主さんには直接関わるものではなかった。仕方がない、という顔の主さんだが、人ごとではないのだ。そして、円安の影響で国内牛向けの輸入飼料が値上げされ、結果、乳製品の値上げがされるというニュース(10月に5円の値上げが予定されている)に話になった。
 どシロウトの私の発想で聞いてみた。自分の牧場の地面と、敷地内の草の線量を計ってOKだったら、自分の敷地内の草を牛たちの飼料に出来るのではないか、という考えだ。それならば、従来通り牛のエサは自分でまかなえる。
 それは出来ないよ、と主さんは即答(そくとう)する。どうしてか読者は分かるだろうか。原乳を製品にするプラントは大型のもので、県内にいくつもないという。農家が持ち込んだ原乳は、
「製品にする時、他の農家が持ってきた原乳と全部混ざっちゃうんだよ」
だから、一軒の農家が持ち込んだ牛乳に放射能が入っていたら、
「福島県の牛乳が全部ダメになっちまう」
というのだ。主さんは優しく、さとすように聞かせてくれる。
 恥ずかしい思いではあるが、聞いて良かったと思う私だ。

②補償金
 話は、第一仮設で耳にしたばかりの「生活補償」の話になった。いや、この話は繰り返し話題になっている。どこまでもこの話はついて回ることだ。と私は思っている。しかし、勘違いもあることを主さんに知らされる。
 私は、第一仮設の「行政相談」で、職員に食ってかかった人は、
「自然災害を受け入れられない」
のだと思った。だから、そのあとの生活やその基盤を誰かが面倒見るべきではないのか、と思う。そして、災害のその後を補償されている双葉郡の人たちに、憤(いきどお)りを感じているのだ、と私は思った。それは正しい。ある程度。しかし、
「東電は原発事故による被災の補償をしてはいても、自然災害によるものは対象としていない」
ことを私たちは知っているだろうか。いや、知っていたとして、それを覚えていただろうか。私は繰り返し聞いてしまった。
「津波・地震による被害に、東電は関わっていないんですか」
私、いや、私たちはこの部分について、かなりあいまいな理解や知識のもとにニュースを行き来している。大熊町・双葉町を襲(おそ)った津波・地震は多くの家屋を破壊し、呑み込んだ。そういえば、それが原発事故との関連があるのかないのか、という議論があったことを私も思い出した。ついでに言うが、東電の賠償窓口に行った楢葉町の人が、避難する時の食事代を請求したところ、
「領収書はあるのか」
と言われたこと。そして、領収書を持参したところ
「避難するかしないかに関係なく、ご飯は食べたのではないか」
と言われたことなども思い出した。東電は「合理的」な判断のもとにお金を出している。
「それで怒ったのが浪江だよ」
と主さんは続けた。読者も覚えているだろう。津波の翌日、行方の分からない家族をすぐに探しに行けなかった家族の思いと怒りを。12日の午後、第一原発建屋は爆発する。あの時、枝野幹事長(当時)が、
「重大な事故ではない」
「格納容器は安定している」
と言った。あの時「事故」という言葉は封印(ふういん)された。「事象」!?だった。

 東電が補償しているのは、あくまで原発による被害のことだった。
○帰る家があるのに帰れない
○地震で家が全壊していても、それを修理・再建できない
ことへの補償なのだ。浪江の人たちが怒ったもので、東電はおずおずと行方不明者への賠償に動きだした。
「どっちみち行方不明になってたんではないか」
と、東電は言えなかったのだ。
 これは、思い出したというより、忘れていたと言うべきだろう。私たちは浪江の町民の要求を当然のことだ、とあの時思った。しかし、私たちは同時に、東電が補償するものは「原発事故」に関するものに限定していると、頭に刻(きざ)んだだろうか。
「どうしてあの人たちは生活が補償されるんだ」
と、繰り返される双葉・相馬の人たちに対する怒りにも似た疑問を、私たちはある承認をしている。そんな現状は、私たちが肝心なことを分かってない、忘れていることがもたらしているらしい。
 いつになく主さんの言葉は熱くなっていた。

③寄生虫!?
 最後に、ためらったのだが、住民税を払わないまま町の住民になっている、という地元の不満についてどう思うか、おずおずと聞いてみた。主さんはさらに熱くなった。
 結論から言えば、いわきに流れ込んだ大量の被災者を支援するのは国ぐるみの対策が講じられている(はずの)ことだった。確かにいわきの議員さんも言っていた。復興予算という名目で支給されるわけではない。地方交付税の中から、市の各ポストが要求して予算化していく、というシステムは、国の予算化のシステムと同じだ。その市への交付金が、いわきには多く配分される。いわき市の住民税でまかなっているわけではない。


 2 堂々巡り

 しかし、私の頭はここでまたぐるぐる回りだす。楢葉町はもちろん、双葉地区の人たちにも二種類(あるいはもっと多く)の人たちがいることを思い出すからだ。
 たとえて言えば、東電が一時見舞金を提案したのは2011年3月末だ。その時からずっと、
「東電から『見舞い』を受ける気はねえ」
と、拒絶している人たちがいる。他方で、そうではない人たちが多いことも事実なのだ。悪いが、炊き出し(たきだし)をしても、こんにちは/ごちそうになります、のひと言もなくやって来て、後片付けはもちろんのこと、ごちそうさまも言えずに、ゴミをそのままにして去って行く人たちを、私たちは、申し訳ないがたくさん見てきた。支援されるのが当たり前、と考える人はどこにもいたが、地域ごとで、その割合がまったく違っていたことは事実だ。
「上げ膳据え膳(すえぜん)で生活してきたからだろう」
主催(しゅさい)する人たちは言ったものだ。
 ひとつ例をあげて考えよう。あとで分かったことではあったが、避難先の郡山より線量の低い川内村の被災者の帰村がまったく進んでいない。村長が帰村宣言したのが2012年の1月。3000人いた村民はまだ、16%の帰還である。報道は、この原因をもっぱら「放射能への不安」と「生活基盤の弱さ」をあげている。私もそれを事実と思う。
 しかし、この帰還事業のはかばかしくない原因は、東電からの補償金だと考える人たちがいる。あまり知られていないが、
「あの補償金をどうにかしないと帰還事業は進まない」
と、昨年、村長が『河北新報』に言っている。確かに、一人当たり月10万円の精神的賠償、そして自営(農家もだ)の人たちには営業補償もされる。しかし、住民が村に帰還した段階で、その世帯/家族への補償はなくなる、と補償内容・期日の書類には明記されているのだ。もとの生活を取り戻そうとすれば、今ある生活はなくなる。
 それでも帰っていままでの生活を再開するんだ、という500人の人たちの心意気をたたえるべきなのか、働かずに「衣食住」を約束された生活を続ける人たちの心中を察するべきなのか。どう考えても「性根(しょうね)から腐る」人たちは出てくる。私はまたしても、原発のもたらしたものを考えてしまう。


 ☆☆
海の向こうの中国(広東省)で、核燃料工場計画が白紙撤回(はくしてっかい)される、という信じ難いニュースがありましたね。住民自身も「(撤回が)信じられない」と、再度デモをしたといいます。住民の安全や健康なんて、二の次三の次と思ってる国だと思ってたんですが。
方や、日本の首相は福島で選挙の第一声をあげ、
「皆さんの安全を守り、復興を約束します」
とか言ってる。いまだに毎時1000万ベクレルの放射線を空気中に放出し続ける第一原発なんですがね。ちなみに、現在の食物規制値がキロ当たり100ベクレルです。そして、いまだ出所不明の一日400トンの汚染水。でも、
「事故を克服した世界一安全な原発」
で、この首相は世界に原発を売り込んでます。恥ずかしいやら悔しいやら。まあ、事故当時の菅首相も、原発輸出を肯定してましたがね。
自民圧勝ですかね。でも、じゃあどこが、ということですね。
いい話、ないもんですかね。ちなみに、山本太郎の円形脱毛症、強烈に印象に残りました。

 ☆☆
少しは明るい話。この間「ニイダヤ」の「お魚カフェ」行ってきました。日曜限定2時までの営業で、余裕に食べられると思ったら、すでに「完売」でした。客のいなくなった「カフェ」の写真です。向こうに海が見えます。
             

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1 コメント

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心の洗濯(選択) (心洗組)
2013-07-16 09:06:13
☆あなたの認めたくないものは何ですか?
どんなに認めたくないものでも、それを
認めれば道はひらけます。

☆心の整理をすることで、心の支えが出てきます。

☆制裁を下すということは、胸がスットすると
思いがちですが、それから先苦しむのは自分です。

☆虚しさの中で欲求は肥大化します。

☆常識と独り善がりの拡大、これが神経症です。

☆愛と言うのは、徹底的に許す事です。
貴方にとっていかに理不尽な事かもしれませんが、
多くの人がそれをできなくてなやんでいます。

☆ 問題を解決する前提は、本人の解決する意志です。
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