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館山事件続報 実戦教師塾通信六百三十六号

2019-01-25 12:48:53 | 子ども/学校
 館山事件続報
     ~今後の手だてとして~


 ☆初めに☆
唐突ですが、東野圭吾の『麒麟の翼』で、容疑者の恋人が、
「加賀さん、信じてください。冬樹君は人なんか殺してません」
と訴える部分を、読者の皆さんは覚えていますか。彼女の予想をひっくり返した加賀の答は、
「ええ、分かっています」
でした。作り話だ、で片づけていいとは思いません。これが職を賭(と)した言葉だと思うからです。仕事を続けている中、自分の首を賭ける時というものは、小さく見える出来事の中にもあるのだ、ということを示すシーンだと私は思っています。
館山いじめ事件の第三者委員会の報告後、関係者はどのような見解を示したのか、お知らせします。読者の皆さんはどのような印象/感想を持つだろうか。「職を賭して」という覚悟の片鱗(へんりん)も見えない、ひどいものでした。

 1 「誰に/誰が」語りかけているのか
 昨年9月の第三者委員会報告(以下「報告書」と表記)後、館山の金丸市長から田副さんは報告書を手渡された。記者会見で、
金丸市長「残念なのは、ご遺族の立場に立ってきたのかが、一番残念です」
田副氏「市教委も学校も行政的に重きを置いているようにおもえました。教育=子どもですから、第一に何を守るかですね」
 こういうやりとりがあって、二カ月。学校関係者がようやく重い口を開いた。どこまで逃げられるだろう、いや逃げきりたいという思いのどっさり詰まった「回答」が、遺族の田副さんに渡った。11月の末だ。
 思うに、当局の相変わらずの姿勢は、報告書が保障したと思わざるを得ない。第三者委員会の採用した「客観性」「正確さ」という視点は、世の中の「常識」「世間」という視点とずれていく。あくまで「行政」の視点なのだ。ひとつ言えば「隠蔽(いんぺい)かどうか」より大切なことは「誠意を持っていたかどうか」だ。あとになってようやく開示された、いじめの指摘をした複数のアンケート回答。当局は「単なる事務上のミス」と言い切った、いや、居直った不誠実極まる出来事。報告書はこの居直りに触れることなく、「慎重さを欠いたもの」とした。「誠意/誠実」「世間の常識」という観点からは出て来ない結論。
 さて、では「逃げ」の「回答」に目を移そう。「誰の」そして「誰に向けた」文書なのか、がタイトルに明示されている。だから五人からの回答はまず、タイトルと署名に注目、である。本文は退屈なので読むこともないです。










上から順に、当時の校長/教頭/担任/野球部顧問(二名)である。校長/教頭/担任の三名は署名入りだったが、伏せた。名前や顔は二の次と考えるからだ。しかし、この文書を読むにつけ、一体どんな顔の奴らがこれを書いて渡したのか、と憤(いきどお)りを禁じ得なかった。問題の核心に鎮座している野球部の顧問にいたっては「野球部顧問」とあるだけだ。
 次。誰に対する回答なのか。いや、「回答」でいいのかと思うのは、私だけではないぞ。まあ置いとく。校長のタイトルは「報告書に関する回答」となっている。「報告書を読んで思う」という形さえとっていない。タイトルをそのまま読めば、「報告/提案があったので答えます」という内容だ。たったひとり教頭だけが「御遺族の皆様へ」とある。以下三名、担任/野球部顧問は差し出す相手不明。
 遺族の田副さんは、確かに「直接渡すのが無理なら、間接的にでもいい」と言っていた。ああそうですかと言ったかどうかは分からないが、これらの書面は教育長を通じて田副さんに手渡された。校長の違和感ある「回答」は、気のせいではない。相手の「こっちはとばっちりを食らってひどい目にあったんだ」ぐらいの気持ちが、この簡単なメモに透(す)けて見える。報告書は26頁にわたっていたことを付け加えておこう。

 2 「再発防止」
 以下は大雑把(おおざっぱ)に、でも注意深くメモを検証してみよう。お悔やみがどのメモにも並ぶ。ずいぶん遅きに逸(いっ)した行動だ、と田副さんは思ったのではないか。こういう重大事態が発生すると、基本的な姿勢を学校は見失う。お悔やみ/哀悼(あいとう)の意を忘れ、ミスしてないか、うかつな言動は慎(つつし)むことという「貝」の状態になる。
 絶対に触れられないこと、それは事件後の自分たちの不誠実な対応である。五人に共通していることだ。

 これで終わりにするが、五人のメモに繰り返し出てくる「再発防止」「二度とつらく悲しい出来事が起きないよう」なる言葉について。
 「再発防止」なる言葉は、それが「終わったこと」を宣言している。皆さんもご存じかも知れないが、すごく分かりやすい事件があった。年明けに発表されたことだ。2009年にひき逃げされさた小学4年生の身につけていた、証拠品の腕時計が紛失したという。埼玉県警がお詫びの会見をした。
「ご遺族の方には大変ご迷惑をお掛けしております。この件に関しては現在調査中であり、適正に対処してまいります。今後このようなことがないように職員を指導してまいります」
「適正に対処」は間違い。「猛省(もうせい)して対処」が当たり前だ。そして、これが肝心。「今後このようなことがないよう」ではないぞ。「全力をあげて時計を探し出します」が当然だろう。「探し出せなかったら無責任な発言となる」ことを恐れて言えないのは分かっている。「覚悟がない」とはそういうことだ。「誠意を示す」とは、こういう時に試されるのだ。
 「再発防止」とは、出来事の「収束宣言」を意味する。田副さんは「これで終わったとは思っていない」と明言している。私に言わせれば、まだ「再発防止」を言える段階ではないだろう、と言っているのだ。埼玉の男の子の無念が腕時計ならば、「勝君の腕時計」はまだ見つかっていない。



 ☆後記☆
さて、読者の皆さんは、オマエは映画『マスカレード・ホテル』を観に行くのか、と言いますか。東野圭吾だぞ、と。もちろん行くわけがありません。
それと『家売るオンナ』見てて気がついたのですが、依頼人の人生を見極め、無表情かつ冷静に仕事をこなす姿って、まさに『ゴルゴ13』! そう思いました。
 ☆☆
大相撲、いやあ分からなくなってきました。今日の貴景勝との一番、見物(みもの)ですねえ。力のピークを過ぎた白鵬の、相撲というものの奥深さを教えてくれる一番となるのではないでしょうか。楽しみですね。

インフルエンザにやられました~

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2 コメント

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Unknown (小出一彦)
2019-01-26 20:36:31
 琴寄さんにはずっと共に取り組んで頂き心から感謝申し上げます。
 先生方のこの「感想文」につきまして、ご本人たち自身が真心込めて書かれたのかどうか、実際の所はわかりませんが、文章で判断する限り、まったくその通りだと思います。
 ほんとに再発防止と言うなら、ご遺族に直接会いに来るのがその決意の表れだろうと思いました。
 そんな中で、ご遺族は、今後の推移を見守りたいとおっしゃってますので、私どももこれ以降もご遺族と共に居たいと考えております。
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Unknown (小出)
2019-01-27 23:08:38
インフルエンザとのことですが、お大事にされて下さいな。
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